SketchBook:5

知らない兄さん×殿のウリ描写があります
苦手な方はここでウィンドを閉じて回避してください
 

 

 

 

  

 

 裸婦デッサン。
 数日前から始まっていたらしく場所を取り損ねた。
 最後列の、人の頭の隙間からのぞき見て描く。
 この場所からは他の奴らの絵がよく見える。
 相変わらず酷い。
 これでよく大学に入れたものだ。
 人事ながらその厚顔ぶりに苛立ちを通り越して尊敬の念さえ抱く。
 実技が終わった後、左近が昼飯に出てしまう前に奴の個人研究室にツナギを返しにいく。
 一応洗濯はしてきたが、左近はこれを使って俺がしたことに気付くだろうか。
 それを指摘されたらどう言い訳しようか考えてどきどきした。
 左近の研究室に入るのはあの日以来だった。
 ツナギを入れた紙袋を渡そうとしたら左近は、

 
『それね、もう捨てようと思っていたやつだから返さなくても良かったんですよ。』

 
 ...などと言って遠慮していたが、それでも一応礼を言って受け取ってくれた。
 後で気付いたが礼を言うのはこちらの方だったのではないか。
 左近も俺に会えてうれしそうにしていたからからまあいいだろう。
 あの日以来入っていなかったが研究室は前よりも散らかっていた。
 左近に聞くと、出品を考えているコンペがあるのだと教えてくれた。
 そのコンペのことは俺も知っている。
 新人画家の登竜門と言われていて、グランプリは賞金1000万と美術館での個展。
 左近はそれを目指しているのだ。
 昼間はここでエスキースを練り、本格的な制作は自宅を兼ねたアトリエで行っているらしい。
『なかなか思うように筆が進まなくてね。』
 苦笑する左近の目の下にはうっすらと隈ができていた。
 悩んでいる左近になにか力になれる事はないだろうか。
 でもまあ、〆切は夏休み明けだから、学校の無い間に腰を落ち着けてじっくり取り組みますよ。
 せっかく話が盛り上がってきたところでドアをノックする音がする。
 もう一人の女の助手が昼飯に呼びに来たのだ。
 空気の読めない、まったくもって無粋な女だ。
 しかも左近が俺のことを気遣って出るのを渋っていると、教授が待っているなどと口からでまかせまで言って連れて行こうとする。

 
『いいんだ、左近。昼飯に行って来い。
 そういう付き合いも仕事のうちなんだろう。俺はまた来るよ。』

 
 左近だって本当は俺と食事に行きたかっただろうが、ここは俺が大人になって気持ちよく譲ってやろう。
 左近は研究室を出て行く俺を実に残念そうに見送ってくれた。

 

 

 

 左近とランチのはずがあの女のせいで予定が狂った。
 もうこうなれば学校にいる必要はない。
 清正と正則に見つからないうちに帰ってしまおうと自転車置き場まで行ったところでまたメールが入った。
 今度はカラオケボックスではなくて、隣街のビジネスホテルだった。
 電車に乗らなければならなくて至極面倒くさい。
 でも、もしかしたらまた、この前みたいにお金がもらえたら左近に新しいツナギを買って返せるんじゃないかと思って行ってみることに決めた。
 今日の男はTシャツとジャケットにジーンズ、茶髪。安物のシルバーのアクセサリーをじゃらじゃらいわせてる。
 昼間からこんなところにいるし、遊んでいる風だったから少し怖かったけど、いざ始めてみたらとても上手で驚いた。
 キスも愛撫も手慣れていて、触れられた場所は確実に昂る。
 こちらがどうしようもなくなってねだるまで決して核心的なことはしてくれなくて、散々哀願してやっと与えられた時には涙まじりに感謝の言葉を呟いてしまったくらい。
 清正や正則は必ず殴るし、この前のスーツは独りよがりに腰を振ってあっという間に終わりだったので、こんなに気持ち良かったのは本当に久しぶりだ。
 これが、左近と、だったらきっともっとイイに違いない。
 左近はどんなふうにするんだろう。
 頭の中で茶髪の男を左近に擦り変えて、本気で何度もイッた。

 

 

 

 夢中になってシていたらいつの間にか窓の外はまっくら。
 ベットサイドのデジタル時計は深夜を示している。
 最中はあんなにいろいろとしつこかったくせに、茶髪は終わった途端一人で眠りたいからさっさと出て行けと真夜中の街に俺を追い出した。
 しかもこいつはとてもケチで代金はお前のトモダチに支払い済みだからと俺には一銭もくれなかった。交通費さえもだ。
 電車はもう無い時間だし、タクシーに乗る金もマンガ喫茶で過ごす金も持ち合わせていない。
 仕方ないから3駅分の距離を歩いて帰る。
 重労働の後の運動に足ががくがくする。
 アパートの階段を上っている時に家々の隙間から太陽が昇るのが見えた。
 茶髪は中には出さず、寸前で引抜いて顔とか、背中とか、身体のありとあらゆるところにひっかけてはお前にはそれがお似合いだと笑った。
 それだからシャワーくらいは浴びさせてもらえるだろうと思っていたのにタオルさえも貸してくれなくて、ポケットティッシュでぬぐっただけの体中が気持ち悪い。
 一刻も早くシャワーを浴びたい。
 睡魔が絶え間なく襲ってくるが、このまま寝ては布団を汚してしまう。
 すぐにバスルームに直行。
 皮膚が真っ赤になるまで体中を擦ってみたがなかなか汚れが落ちない。
 洗っても洗っても足りないような気がする。
 疲れてバスタブの中に座り込んで頭からシャワーを浴びていたら何故だか涙が出て来て止まらなくなった。
 酷い男だったけどこっちだって気持ちの良い思いもしたのだし、もう二度と会う事もないはずなんだ。
 それで終わりのはずなんだ。
 だから俺はまだ平気のはず、なのに。