SketchBook:4 

  

 

 

 

 

 

 身体がだるく、吐き気がする。風邪かもしれない。
 結局昨日は学校には行かなかった。
 腹の中に出されたものをろくに始末しなかったせいで酷い腹痛に襲われて、家に帰って来てそのまま寝込んでしまったからだ。
 起きてからもなんとなく気分が悪い。こんな無様な姿は左近に見せられない。
 そういえば昨日から食事らしい食事をしていない。
 腹が減ったのでコンビニで食料を調達する。
 昨日のスーツがくれた一万円札の残りで菓子パンだのスナック類だのカゴから溢れるほど買ってしまった。
 到底一人では消費しきれない量に、隣の兼続と一緒に食べようと持っていったら、奴は留守で代わりに知らない少年がマンガを読んでいた。

 
『直江さんならいませんよ。』

 
 少年に、こんな時間に中学生が学校に行かなくてよいのかと聞いたら、奴は自分は中学生などではないという。
 では高校生か、高校生ならば多少さぼっても差し支えなかろうがあまり褒められた事ではないなと言うと、自分は高校生でもないと返ってくる。
 ではお前はなんなんだと問い詰めたらやっと同じ大学の彫刻科の一年生だと白状した。
 最初からそう言えばいいのに。いまいち反応の鈍い奴だ。
 兼続とはサークル(軽音というがあれはただの飲みサークルだ)で知り合って、今日は課題研究のために兼続のところへ資料を借りに来てみたものの、約束をした本人がいないのでこうして待っているのだという。
 確かに兼続の部屋は訳の分からない書物で溢れているが、お前のいう資料とはその手の中にあるマンガのことか。
 幸村という名のその少年は、そういう三成さんは学校にいかなくて良いのですかなどど問い返してくる。
 ...鈍いと思ったらなかなかに鋭い。
 いいのだ、俺は自分ひとりでやっていくことに決めたのだから。
 幸村はなんだか腑に落ちない顔をしていた。
 一緒に兼続を待つ間、幸村といろいろ話をした。
 中学生でも通るほど幼く見えるが、幸村も俺や兼続と同じで高校からストレートで入って来たらしい。
 油絵には劣るが彫刻もなかなかに狭き門だと聞く。
 幸村もそれなりに優秀なのだろう。
 まあ大学というのは入ってからが勝負だ、せいぜい慢心せずにがんばれ。
 俺のアドバイスに幸村は神妙に頷く。
 こいつはいささか単純な思考の持ち主ではあるものの、礼儀正しく素直な少年であると思う。
 これなら俺が教えてやれることも多いだろう。役立つことはなさそうだが、側にいても邪魔にはなるまい。
 めぼしいマンガを読み尽くしても兼続はまだ帰って来ない。
 この部屋には驚くべき事にゲーム機どころかパソコンもテレビも無かった。
 電気機器といえば天井からぶらさがっている裸電球くらいだ。
 買って来た菓子も二人で全部食べてしまい、会話も途切れがちになって時間を持て余しかけていた頃に兼続帰宅。
 三人で飯を食うことにする。
 この世で一番美味いものは米であるという兼続の主張を取り入れ、兼続の実家から送られて来た米を土鍋で炊いて、今日の献立は白米ごはんだ。
 要は米だけなのだが、幸村は実に美味そうに一人2合の白米を平らげて、加えて俺の残した分までおかわりした。
 久しぶりに楽しい一日だったが、結局今日も学校にはいかなかった。
 そういえば随分と長い事左近の顔を見ていない。
 心配しているといけないので明日こそはきちんと学校に行こう。