昼食もとらずに仕事を早々に仕上げて左近は夜の訪れを待ち詫びた。
 自分用の酒の膳と、昨日約した通り盆に山盛りの団子と、いくつか見繕った菓子を用意して空が茜から藍に、そして漆黒へと映り行く様子をひたすら眺める。
 彼が再び現れる保証などどこにも無いのに、まるで夫が通ってくるのを待ちわびる王朝時代の女のようだと左近は1人苦笑した。
 桜の花は暖かかった気候のせいで八部咲きにまで開いている。
 満開のほんの少し手前。
 ちょうど見頃というまでに成長していた。
 ほのかに紅を含んだ花弁が春霞を従えて、闇に浮き上がる様はどこか妖しささえ孕んで昼間に執務に追われながら見たのとはまるで違う顔。
 その姿に左近はどうしたって昨日の少年の痴態を思い浮かべてしまう。
 とまどいながらも自分を受入れ、初めての絶頂の快楽に翻弄された表情。汚れを知らないままに悶える真っ白な身体。
 それらが自分の手の中で咲き乱れたことが今となっては幻だったのかとさえ思う。
 

「やはりあれきりだったかね...。」
 

 月がちょうど頭の真上にまで上り詰めた頃、左近は庭に出た。
 大木に歩み寄り、その木肌にそっと手を這わす。重ねてきた年月を表すかのように硬くざらつくそれはけれど陽の光の名残か仄かに暖かい。
 頭上の花に目を移そうとした顔を上げた左近はとっさに目を見開いた。
 

「うわぁっ!」
 

 いくらかの花びらとともに花の影から落ちて来たのは少年の身体。
 左近は反射的に腕を広げてそれを抱きとめた。
 何が起きたのか分からない、といった顔でぽかんと見つめる少年に左近は微笑んで言った。
 

「また、会えたな。」
 

 少年の顔がゆっくり破顔していく。
 

「もう一度、お前に会えますようにって祈ったんだ。そしたらまたここに来れた。」
 

 細い腕が左近の首に回される。
 

「俺も待っていた。」
 

 全てをゆだねてしがみつく重みが心地よい。
 左近は腕の中の小さなぬくもりを抱き締める。
 例えばこれが、桜の見せる幻だとしてもこの胸に沸き上がる愛おしさを確かに信じて。

 

 

 

 

 抱きかかえたままの身体を座敷に移すと、少年はどこか所在無さげに座り込んでいる。
 

「昨日約束していただろ。好きなだけ喰って良いんだぜ。」
 

 団子の盆を差し出してやっても手をつけようとしない。
 昨日はあれだけ喜んでいたのに。少年のどこか切羽詰まった表情に左近は首を傾げる。
 

「何かあったのかい?」
 

「住職に今夜部屋に来いって言われて。俺は嫌で、お前に会いたくて..逃げて来た。」
 

 顔をうつむける少年の仕草からは昨日は無かった仄かな色香が匂い立つ。
 その身に快楽を知って綻びかけた蕾。その香りに住職も気付いたのだろう。
 そうさせてしまったのはまぎれも無く自分。何も知らなければ今しばらくは硬い芽のままでいられただろうに。そう思うと左近の胸のうちには昨晩感じた後悔が蘇る。
 

「俺は、昨日お前にされたようなことをされるんだろ?
 それならお前がいい。お前ならきっと怖くない。」
 

 幼い告白に左近の胸に沸き上がる喜びと罪悪感。
 身体を繋ぐ、その意味を彼はどれだけ分かっているのだろうか。
 しかし本来は恋い慕う者同志のみが行う行為だと教えたところで、彼にそれは許されない。ならばいっそこの手で為すべきことなのか。
 

「本当に俺でいいのか?」
 

「お前は多分やさしいから。」  
 

 はにかんだ笑顔が消えないうちに床に広げた羽織の上にその身体を横たえる。
 今夜はそれしかまとっていない夜着の帯に手をかけると細い肩がわずかに震えた。
 露に開けば、たった一夜戯れただけなのに以前とは比べ物にならないほど艶を増した肌。酔いに染まっていない今夜、それは青白く透明感さえもって左近の目に映った。
 

「昨日のは嫌だったか?」
 

 少し記憶を廻らせてから少年は答えた。
 

「変な感じがしたけど...気持ち悪くはなかった。
 その..もう少ししてみてくれないか。そうすればわかるかも。」
 

 少年の言葉通り左近はまずは胸の突起に舌を這わせた。
 ふっ、と頭上で息を飲む音がする。
 片方を咥内で転がし、片方を指で摘まみ上げると吐息は小さな叫びに変わる。
 足をもじもじとすり合わせているところを見るとそれなりの快楽を見いだしているのだろう。
 じわじわと、しかし確実に快楽を受入れていく身体を左近はさらに押し開こうと舌を下肢の間に下ろした。
 

「それっ..またするのか。」
  

 初めての衝撃を思い出したのだろう。途端に少年は身を縮めた。
 

「気持ち悪くはなかったんだろ?」
 

「でも..怖いんだ。なんだか自分がわからなくなりそうで。」 
 

 左近は頭を上げ、顔を少年のそれに近づける。
 

「怖けりゃ掴まってればいい。絶対に俺から離れるな。」
 

 あやすような、撫でるだけの口づけに少年はこくりと頷いた。
 健気にふるえる肉芽は左近の咥内にすっかり収まる。
 舌を絡めて扱きあげ、軽く吸い上げると幼いながらにそれは一回り腫れ上がった。
 もしかしたら、と左近は思う。今夜は彼に吐精する歓びを与えてやれるかもしれない。
 

「ひゃっ..いたっ。」
 

 薄い包皮に隠されたままの先端を舌先でえぐると少年は身をよじらせて逃れようとした。
 

「少し我慢してくれ。」
 

 朱の登り始めた頬を撫でてやれば彼はまたすぐにおとなしさを取り戻す。それでも伏せられた睫毛が微かに震えるのを止められない。
 それを哀れとも思う反面、左近の嗜虐心は多いに刺激されてしまう。
 この無力で無垢で、ゆえに可憐な生き物が自分の舌先ひとつにうち震える姿になけなしの理性さえかき消されてしまいそうで。
 

「今、悦くしてやるからな。」
 

 そう告げると左近は再び口淫を開始した。
 むき出しの先端を歯で擦り、その下に揺れる二つの未熟な果実を指先で摘んで軽く揉みしだく。
 

「ぁあんっ..ひぅっ。」
 

 双方からの刺激に少年の足がぐん、と突っ張った。
 

「だめっ、なんか..来るっ!漏れる!!」
 

 排泄時の刺激に似て、けれどそれとは比べ物にならないほどの強さをもった急激な速度で下肢に渦巻き、次第に性器の一点に集約されていく。
 このままでは口の中で漏らしてしまう。
 混乱する思考の中で少年は男の頭を引きはがそうともがくけれど、彼の力ではそれは叶わない。
 

「ああ!もぅっ!!」
 

 空を掻いたつま先を反り返らせて少年は達した。
 性器にわだかまっていた熱が吐き出されて行く。
 まだ十分な濃さをもたないそれを男が喉をならして飲み下している。
 それどころか、出し切ったはずの性器の先端に口を寄せられて、まだ尿道に残っていた精液まで吸いだされると少年の身体はぐったりと弛緩した。 
 はあはあと荒く息をつく顔に汗で張り付く髪を払ってやると、涙で潤んだ瞳が左近を見つめ返して来た。
 

「よくがんばったな。えらかった。」
 

 そのまま柔らかな髪を撫でてやると、それが恥ずかしかったのか少年は顔を真っ赤に染めて目をそらしてしまった。
 

「こんなことで褒められても..。」
 

「大事なことだ。これで大人の仲間入りだな。」
 

「俺は子供ではないと言っただろう!」
 

 やはり少年は子供扱いされるのが気に触るらしい。
 それが既に子供の証なのだけれど、左近にだってこの年頃の少年が大人を夢見る気持ちはよく分かる。
 

「じゃあもう少し、大人のやることをためしてみるかい?」
 

 しばしの逡巡ののち、少年は顔を背けたままこくりと頷いた。

 

 

 

 

 これも彼を喜ばす為と用意していた水飴の壷に左近は指を浸す。
 とっぷりと粘液にまみれたそれを少年の口元に近づけてやると、餌を待つ雛のように小さな舌が絡みついて来た。
 

「甘い...。」
 

「もっと欲しいか?」
 

 少年の首が縦に振られるままに左近は飴を含ませてやる。
 左近の大きな手に自分の両手を添えてしゃぶりつく姿はそれだけで十分に扇情的だったけれど、この行為の目的を忘れてはならないと左近は見とれる自分を戒めた。
 少年はすっかり味の無くなった指をちゅうちゅうと吸っている。
 

「そのまましっかり濡らしな。」
 

 一瞬不可解そうな表情を浮かべたけれど、少年は左近の言葉に素直に従った。
 

「もういいか..。」
 

 名残惜しそうに吸い付く唇から指を抜き去り、左近は少年の身体をうつぶせて逆さまに返し、自分の顔の上に彼の股間が迫る体勢を作った。
 

「やっ..なにっ!?」
 

 先程まで口を寄せられていたとはいえ、性器の奥、慎ましやかな蕾みまでも全て晒される姿勢に少年は身をよじって逃れようとする。 
 

「おとなしくしててくれ。」
 

 両の手で囲んでしまえそうなほど細い腰を掴んで固定すると、左近は目の前に双丘の割れ目に舌を伸ばす。
 

「うぁっ!」
 

 自分ですら満足に触れたことの無い場所への柔らかな刺激に少年の身体が跳ね上がった。
 

「何するんだ!?そんなとこ..汚い..。」   
 

 男の力に逃げることも叶わず、他人になど見せた事の無い場所を開かれて羞恥に震える声。可憐なそれはしかし左近を楽しませるだけだった。
 男の視線を感じて無意識にひくひくと収縮を繰り返すそこは本人の意思とは関係なく左近を誘い立てる。
 吸い込まれるように左近は少年の唾液で濡れそぼった人差し指をそこに差し込んだ。
 

「ひぐぅっ!」
 

 入り口のすぼみには抵抗を感じたものの、第二関節の辺りまで埋めてしまえば中はゆるゆる左近を迎える。
 どこまでも柔らかな粘膜の感触を指先で楽しんでいると次第に入り口に込められていた力も弱まって来た。
 続いてとばかりに左近は中指を添える。
 

「やっ..はっ..。」
 

 増やされた異物感に少年は荒い吐息を繰り返して耐えていた。
 節くれ立った男の指だ。いずれはそこに迎え入れなければならない性器とは比べ物にならないとはいえ、彼にとっては今はそれが精一杯の許容範囲なのだろう。
 焦っては彼の身体を、何より心を傷つけてしまう。 
 今日のところはこれで慣らそう。
 左近は中に埋めた指を揃えたままゆっくりと抜き差しを開始する。
 空いた片手で、すっかり縮こまった性器をなぜてやると後孔がきゅっと締まる。
 そうすると中の指の感触をより敏感に感じる。それを繰り返すうちに少年の吐く息には微かな甘さが混じり始めた。
 

「気持ちいいか?」
 

 いつのまにか少年の性器には芯が入り始め、腫れ上がっている。
 その身体的な変化を見れば彼の感じていることは一目瞭然だったのだが左近はあえて言葉で問うた。
 我が身に振りかかかる慣れない快楽に頭の中が混乱しているのだろう。少年に出来るのはただこくこくと首を縦に振り、喘ぎ声を漏らすことだけ。
 その拙い反応にも満足した左近の指は少年の内壁を探るような動きをみせる。
 左近が探しているのは男のもうひとつの急所だった。このような若年の者でもそこを感じることができるのかいささか不安ではあったが、ものは試しと探りを入れる。
 深く、浅く、狭い内部を丁寧に擦って行くうちに他の部分とは感触の違うしこりが指先に触れた。
 

「ひゃあぁんっ!!」
 

 そこをぐっと押しつぶした瞬間、少年の口から今までになく大きな嬌声があがる。
 

「そこっ!そこ、なんか変だ!!」
 

 内部からの刺激に耐えかねた少年が手をばたつかせるが、再びの刺激の前に抵抗も空しく押さえられてしまう。
 

「やめてっ..もうやめてぇ...。」
 

 開け放したまま、だらだらと涎をこぼす少年の口からはついには嗚咽が漏れ始める。
 しかしここで中途半端に止めれば余計に辛い思いをさせることになる。
 左近は身もだえる少年の真っ白な背筋に口づけながら、最後の仕上げとばかりに両手の動きに激しさを加えていく。
 中をかき回され、性器を弄られて少年の身体は丘に打ち上げられた魚のようにのたうった。
 

「ひっぐぅ!!」
 

 前をまさぐっていた左近の手に暖かな感触がほとばしる。
 と、同時に少年の身体は弓なりに反り返り、やがてぐったりと左近の上に倒れ込んだのだった。
 
 

 

 

 

 今宵二度目の絶頂を味わい、力の抜けた身体を左近は動かそうと手をかける。
 それを少年はけだるそうに首を振って拒否した。
 

「どうした?」
 

「お前のも..腫れてる。」 
 

 少年の目線がじっと注がれる先を見るとそこにはいきり立つ己の股間。
 彼を欲情させるつもりが、想像以上のその痴態に左近自身もまたしっかり反応していたのだ。
 

「このままだと苦しんだろ?俺はどうすればいい?」
 

 自身の経験を顧みているのか、単なる好奇心なのか。
 どちらにせよ少年の申し出に左近の心は揺らぐ。
 ここはひとつ言葉に甘えて、という気持ちとこれ以上を求めるのは卑しいのではないかという気持ちと。
 せめぎあう両方の間で左近が答えを出しかねているうちに、少年の器用な指は着物の裾を割り、下履きを押し上げる性器をその脇から取り出していた。
 

「ちょっと待てっ!」
 

「お前がしてくれたみたいにすればいいんだな?」
 

 左近の静止も聞かず、少年は大切そうに両手でそれを包み込んだ。
 ちゅばっ、という音がして熱い性器の先にいささか温度の低い舌が這わされるのを感じる。少年は左近がそうしたように性器を口に含もうとしたが、彼の小さな口ではそれが出来ない。
 

「お前の..大きすぎる..。」
 

「舐めてくれるだけで十分だ。」
 

 少年は頷くと積極的に舌を動かし始めた。 
 初めての行為のはずだ。決して巧みではない。むしろくすぐったさが先に立ち、快楽にはほど遠かったけれど、少年が熱心に奉仕する姿は左近の目を楽しませた。
 けれどやはりそれだけでは足り無い。
 

「あふっ...んっ..ぁ。」
 

 少年もまた疲れを見せ始めたのを感じて左近は自身に手を添えて扱き始めた。
 

「俺がするって言ったのに..。」
 

 愛撫の拙さを指摘されたようで少年は不満げな声を漏らす。
 

「いいからそのまま先を銜えていてくれよ。」
 

 代わりの役目を与えてやるとおとなしく彼はそれに従った。
 ちろちろと細やかに動く舌が先端の切り込みをくすぐる。時折、思い出したようにきゅっと吸われ、左近の手の動きは激しさを増して行く。
 

「ぐっ..ぁ。」
 

 低く呻いて左近の吐き出した白濁を少年は先端にむしゃぶりついたまま受け止めた。
 そのまま口を離さず、全てを飲み込んでからやっと彼は左近を解放する。
 

「にがい、不味い、臭い。こんなもの、お前はよく飲んだな。」
 

 左近の方を振り返った彼の紅い唇の端には溢れた精液が白くこびりつき、なんとも言えない淫猥な表情を作り出していた。
 子供の無垢と淫乱な性。
 その両方を兼ね備えた彼は最初に出逢った時とは全く別人だった。
 一個の蕾を自分が花開かせた。
 左近の後悔はいつのまにか満足感へと形を変えていた。

  

 

 

 


「俺がここに来れるのは、多分、桜のせいだ。」
 

 少年は左近に背を向けて縁側に腰掛け足を揺らしている。
 幼くて、華奢で、細くて、そのくせどこか色香の漂う項。
 そんな後ろ姿をいつまでも手元に留めておけないことは知っている。
 それでも永遠を望むのは罪なのだろうか。そんな左近の思いを知ってか知らずか少年は独り言のように続ける。
 

「昨日も今日も、桜を見ていたらここに来れたから。
 だからきっと桜が咲いてる間はお前に会える。
 でも桜は満開になっていずれ...。」
 

 少年の声はか細く途絶えた。
 散らない花は無い。蕾もやがて咲きこぼれるように、時は留まることを知らない。
 

「あと一夜だ。」
 

 それが二人に残された時間。
 今この時も刻一刻と満開に近付く桜に左近は願った。
 せめて、明日のこの時も咲き誇っているようにと。

  

   

 

  

  

   

 

  


  

続きました。そしてまた続きます