小高い丘に張った本陣からは味方の軍が雪崩のように崩れて行くのがはっきりと見渡せた。
始めこそ優勢だったものの諸将の裏切りと怠慢、そして保身が戦局を変えた。
思考外の出来事にその場しのぎの命を叫びながらも、全身を覆い尽くそうとする絶望にあらがって必死に立ち続ける三成を左近は見つめていた。
先ほどの一戦で自らも被弾している。胴に巻いた白布はもう代えるのがおっくうなほどすぐに紅に染まって重たくなった。
全身が寒い。命が少しずつ、流れ出ていくのが分かる。
「殿。」
静かな声で左近は呼びかけた。びくり、と三成の細い肩が揺れた。
「殿。負け戦、でござる。」
「言うな!俺はっ、俺はまだ...!」
左近は首を左右に振る。目の前の惨状は三成にも理解できているはずだ。ただ、それを簡単には認めようとしない。できない。
「落ちてくだされ。殿が生きておられれば、またの日に。」
「嫌だ!俺が落ちれば左近は、皆はどうなる!?俺はここに居る。最期までここに!」
大きな手が肩に触れた。冷たい手だ。温かだったこの手にどれだけ励まされて来ただろう。その手も今は氷のようだ。
血の気の失せた顔で、それでもしっかりとした眼差しで左近は言う。
「どうか殿、お生きくださいませ。
殿のために左近も逝きます。
殿が生きておられれば、左近はどのような姿になってもお迎えに参ります。」
一時の逡巡の後三成が苦しげにうなずくのを見届けて、左近は得物を手に本陣を後にしていった。
以来、彼の消息はようとして知れない。
生きて、いるのかさえも。
「おい、起きろ。」
抑揚の無い声につかの間の眠りは終わりを告げる。
夢を、見ていたのだ。あの時の夢を。
このところ尋問と夜毎の狂宴に心身共に疲れ果て、気を失うようにしか眠っていなかったものを。
「出ろ。今日もお呼びがかかってるぜ。」
これから三成の身を襲う夜を知っているのか獄吏の頬には下卑た笑みが張り付いていた。
後ろ手に枷をかけられたまま廊下に出され、屋敷の一室に放り込まれた。
用意の良い事にそこには一組の布団がしつらえられ、何やら怪しげな香まで薫きしめられている。
「待たせたな、佐吉。」
ほどなくして男が現れた。とっさに睨みつけてやることだけが、今の三成の身にできる唯一の抵抗。しかしそれすら男にとっては楽しみのひとつであるらしい。
男は有無を言わさず肩をつかむと三成の身体を仰向けに引き押した。
それに馬乗りになると、男は手荒く三成の着物を引き裂く。
「奇麗だな..。」
そこに現れたのは陶器の肌に、夜毎に散らされた紅。鬱血に混じってところどころに刻まれた歯の跡。それは癒えるよりも早く数を増し、今や発疹のように全身を埋め尽くしている。
中でもいっそう紅く色づく胸の突起に舌を這わせると、組み敷かれた三成の身体がひくりと震えた。
「女みてぇになったな。」
男の揶揄する通り絶え間なく弄ばれたそこは以前の慎ましさを忘れ、常でさえグミの実のように肥大し、あたかも意思をもって愛撫を待っているかのようだ。
男はその変化に興が乗ったのか、片方に爪を立て、もう一方にも歯を立てた。
「ぅあっ..。」
三成の身体にとってそこは既に性器だった。着物を付けている時でも布のかすめる刺激に反応するほどに育てられているのだ。
男のもたらす刺激に三成は自由にならない身体をよじって耐える。せめて声をあげまいと下唇を噛み締めて。
「こんなもので感じるんだな、お前の身体は。」
唾液でぬらついた胸を残して男は身体を足の間にずらした。
膝を割られた間の性器は熱を帯び、半ば形を成しはじめている。
生理的な反応でしかないものを揶揄されて、どうにかその目から逃るため足を閉じようとするが徒労に終わってしまう。
男の無遠慮な指がまだ下帯を緩め、後孔に伸ばされる。尻の間の布の脇から侵入し、その奥まで。
「いや..だっ。」
入り口の襞をなぞれば目下の身体は跳ね、つぷりと指先を沈めれば吐息を吐く。
連日蹂躙を受けて綻びかけたそこは男の指を拒むどころか、自ら飲み込んでしまう。
「締まりのねぇ穴だ。」
くっくと笑みを漏らし、男はさらに指を進めた。
中が慣れ、絡み付いて来た頃を見計らってさらにもう一本。
そうして三本の指が身体の中に埋め込まれた頃、男はふと三成の様子の変化に気付いた。両足をすり合わせ、無意識にであろう腰が揺らめいている。
「もう出したいのか。」
「これ..もう、外せっ。」
問いに三成は答えない。ただ、熱のこもった吐息が言葉とともに吐き出される。
「..外せっ。外してっ..。」
三成が乞うているのは下帯のことだ。確かに、後ろの刺激によって前の布は張りつめ先端のあたりに染みが出来始めている。
「駄目だ。中に漏らせ。」
容赦なく言い放つと男は胎内に埋めた指をそれぞればらばらに動かし始めた。
「あっ..ぁあっ!」
そのうちのひとつが腹側のしこりをかすめる。声を漏らすまいとしてきた三成の努力も虚しく、そこを攻められると耐えきれない嬌声が上がった。
歯を噛み締めることもできずかたかたと小さな音が聞こえる。どうやら限界が近いらしいがそれを留めているのは無様な姿を見られたくないというひとかけらの羞恥だけだ。
「ほら、出せ。」
男が3本の指を合わせてしこりを掻いた。
「ひぃっ!」
ひときわ大きく身体を振るわすと三成は胎児のように背を丸め、下肢を駆け抜ける熱流に身を明け渡したのだった。
床の上に踞った身体を広げさせると、放出を受け止めた白布には大きく染みができていた。
しめった布が肌に張り付き、その下の力を失った性器の形も、淡い恥毛までもがうっすらと透けている。
「ははっ、まるで粗相をした子供みたいだ。
良い年して佐吉はみっともないなぁ。」
「ちがっ..ぅ。」
否定したところで痴態は隠しようもない。加えて自分のものながら温度を失った体液が肌にふれる感触が気持ち悪い。
「もういいぜ、取ってやるよ。」
男は下帯の紐に手をかけ、それを三成の身体から引きはがした。
「行儀の悪い事をした罰だ。これは自分で銜えてろ。」
湿った下帯をぐしゃりと丸め、屈辱に顔を背けたままの三成の顎に手をかける。男の頑強な指に口蓋を掴まれ、口の中に布の塊が押し込められた。
独特の青臭さが、口内を、喉の奥にまでも浸食する。
喉の奥まで侵入する異物の感触と、口の中に広がる自分の出したものの味に三成はえづいた。胃の底から何度も嘔吐物がせり上がって来たが、布に阻まれてそれすら叶わない。
「ぐっぅ..。」
自分の思いつきに満足した男は続けて三成の身体をうつぶせに転がした。
腰を掴まれ、引き上げられて体重が不自由な顎と肩にかかる。押しつぶされそうな胸が苦しい。
ひやり、とした液体の感触が下肢を伝った。男が用意して来た香油を使っているのだ。
先ほどの指技で随分と緩んでいた後孔に香油が塗り込まれ、間もなく肉の切っ先が宛てがわれる。
衝撃はすぐに訪れた。
「ぅふっ..う。」
ぐい、と男に一気に奥までつき込まれ、背筋を駆け上った最初の快楽を三成はかろうじて耐えた。最初の頃、これだけで一度達してしまい、こらえ性の無いやつだとひどく折檻をうけた経験があるからだ。
男はゆっくりと抜けるまで引き、再度強く突き入れた。
自然と男の動きを追って腰が揺れる。
「佐和山の狐と聞いていたがこれではまるで犬だな。」
三成の浅ましい様子に男が嘲笑まじりに言った。
「お前は盛りのついた犬だ。」
えぐるように腰を使いながらさらに続ける。
「犬ならば、わんと鳴け。ほら、鳴いてみよ。」
「くぅっ..ん。」
違う、と否定したはずの声は鼻から抜けてかん高い鳴き声になった。
「お前、それでは愛らしい子犬のようではないか。」
男がさらに嘲笑う。ぢゅぷり、と粘膜同士が卑猥な音を立てて擦れ合う。自らが生み出す羞恥に打ち震えて中が男を締め付け悦ばす。
心の片隅では拒否していてもその大部分が既に麻痺して誘う。素直に快楽をむさぼれ、と。その証拠に一度吐精したはずの前が、再び熱を持って立ち上がっていた。
しかし男は自分の悦を追う事に夢中で三成に施してやろうなどとは頭のすみにも思っていないらしい。覆いかぶさった男の重さに押しつぶされる風を装って床に押し付け、自分で処理しようと試みた。
男の言うように、この様では盛りのついた犬のようだ。ほんのわずかな間、顧みる自分がいたがそれもすぐに後ろから襲う快楽にかき消された。
「んっんっ..んっ。」
速度を増し始めた男の動きに合わせて乱れた呼吸は鳴き声になって漏れていく。
「っ出す、ぞっ。」
短く男が呻いてこれまでになく大きな動作で腰を突き入れた。その姿勢のまま一瞬の静止の後、三成は腹の奥に熱い塊が吐き出されたことを知覚した。
下敷きになっている彼の下腹もまた床と共に温く滴る蜜で濡れそぼっていた。
床に倒れ伏した三成をそのままに、男は自分の身繕いをすませるとそそくさと部屋を出て行ってしまった。自分の欲望さえ遂げれば後はまるで興味がないらしい。
部屋に静けさが戻る。
「くっ..はっ。」
おっくうではあったが舌と顎を懸命に使ってどうにか口に詰められた布切れを吐き出すと、やっと新鮮な空気が肺を満たす。
男のものと、自分のものと。あらゆる体液で汚れた下肢が冷えた感触に嫌悪する。もうすぐ獄吏が牢に引き戻しにくるだろう。それまでのわずかな時間せめて何も考えたくないと三成は目を閉じた。
どれくらい時間が過ぎただろう。遠くから足音が近づいてくる。
ゆったりとしたそれは部屋の前で止まり、同時に障子の開かれる音がした。
「ここまで穢されてもまだそなたは美しいのだな、三成。」
聞き覚えのある声に三成ははっと顔を上げた。
夜の闇に姿は霞んでいたが、声の主を間違えるはずもない。
「いえ..やす..。」
どっしりとした体躯の持ち主が、立ったまま見下ろしている。
一方の自分はどうだろう。帯一本をかろうじて巻き付け、上も下もはだけさせられた粗末な着物を残骸のように身体にまとわりつかせている。辺りに散らばったままの下帯も、こびりついた体液も、全てがみじめなものだった。その自分に家康は何を言っているのだろう。
「光が強いほど、影はその濃さを増す。」
家康は膝まづき、肉付きの良い弾力のある指を三成の頬に這わせた。
「そなたが美しければ美しいほど穢したくなる。
高潔であれば高潔であるほど貶めたくなる。
あやつらはそなたが許せんのだ。」
優しささえ感じられる穏やかな声で家康はしかしはっきりと告げた。
「そなたは負けたのだ三成。」
三成の肩が強ばる。現実の事とはいえ、その言葉は万本の剣となって胸を突き刺した。
「誰かが責を負わねばならん。
儂が敗れれば儂が負うていたであろう責を、この時にあってはそなたが。
関ヶ原の地に倒れた数十万の敵味方を弔う贄が必要なのだ。」
美しい、と言った生き物を慈しむように指は頬から首筋に流れ、そして名残惜しそうに離れた。
「生き延び、これから生きる人々の為に。」
三成から目を外し、どこか遠くを見つめるような眼差しで呟くと家康は訪れた時と同じように、静かに部屋を後にした。
再び、静寂が訪れる。
ああ、左近。お前の言った通りだ。
俺はやはり生きなければいけないらしい。
死ぬ為に。
飼いならせなかった戦国という名の化け物の、贄となる為に。
お口に突っ込んだまま、、というやってみたかったのだよ左近...がくり なんだかフラグが立ってしまいました
|