最終話・餅の彼方にBetter leave it to a specialist. (餅は餅屋)

 

 

  


 餅の夜毎の要求はわりかし無遠慮でしつこかった(餅だけに)。
主にクライマックス時において餅の身体の中心の突起部分から分泌される濁り酒的なアレを口の中に出されたりするのはお酒が苦手な高虎にはちょっと辛かったりもしたが、そんなことは帳消しにするくらい終わった後の餅のフォローは実に漢( おとこ)らしく完璧であった。
 もっちもち(餅だけに)な腕に枕され、耳元で甘く囁かれる餅小話(関ヶ原を境にして東西で餅の形状が異なること等)を聞き入っている時などはうっかり恋人気分を味わったものだ。

 そんなこんなで無理矢理気味に始まった二人の関係はいつしか惰性に変わり、その後数十年に渡ってなあなあのまま続いたのであった---。

  

 

 
 
 それはもう晩年のこと。

 数年前から時折目が霞む事があったのが、この頃では高虎の目は完全に見えなくなっていた。
 加えて身体の自由も利かず、床に伏す事も多くなった。
 それでも新たな城の縄張りは次々と頭に浮かぶ。
 若い頃、槍一つを手に功名を得んと戦場を駆け巡った夢も見る。
 懐かしいと思うが悲しくはない。何が悪いでもない、重ねた年月に身体がすり減った、ただそれだけのこと。
 ついに起き上がれなくなった高虎に寄り添うように、餅の気配はいつもすぐ近くに感じられる。

「いよいよ最期らしい。」

 おそらくそれは、声にはならなかっただろう。
 けれど、高虎には枕元の餅がゆっくりと頷く気配が確かに感じられたのだ。

「お前には随分慰められたな。」

 妻の死に目に会えなかった時も。
 二度に渡る大阪での戦で自身も重傷を負い、数多の家臣を失った時も。

 思い起こせばこの餅は側に居た。

 多少の卑猥な行為の数々はこの際餅なりのスキンシップであったのだと思うことにする。

「しろ..もち...。」

 手を伸ばした先に触れたのは、いつものように柔らかな感触とは違う、細い指先。

「...君は鈍感だな。」

 聞こえたのは、穏やかな声。
 それはあの日この腕をすり抜けて消えたはずの彼の人の--。

「ずっと近くにいたのに、気付かなかったなんて。」

 まるで柔らかに日の射すように、ふんわりと微笑む顔と揺れる黒髪が脳裏に蘇り、高虎は口の端を歪めてみせた。彼もまた、永遠に別れたかつてのままに。

「知ってたさ。けれど--。」

 言えばまたあんたはまた逃げて行ってしまうだろ。
 声にすれば、泣き出してしまいそうで。
 けれど彼にはきっと知れている。
 気がつけばこんなにも長く側に居たのだから。

「俺が逝くのを待っていてくれたんだろ。長くかかっちまったな。」

「ああ。しかし、餅として振る舞う人生も悪くはなかった。」

 餅に甘える君は存外に可愛らしかった。
 くすり、と微かな笑い声を漏らして白い影が老いた身体を包込む。
 永く待ち望んでいた腕に身を任せ、高虎はそっと目を閉じたのだった---。

 
 
 
 
 

知っているか、藤堂。
お餅の形は心の臓を象っているのだ。
丸くて、つややかで、何より柔らかい...君の、真っ白な心を---。 
 
  

 

 

 
〜おわり〜




  

  

 
   

     


なんのフラグもない唐突すぎるオチ!
ひどいなこれホント
でもすごく満足してる
おつきあいいただきありがとうございました!