そんなに嫌なら縛り上げてやろう、そうした方が却ってあんたも余計に消耗せずに済むだろうし、何より無理矢理されたんだって言い訳も出来る、と敷布の上に突き倒した背で両の手をまとめあげ脱ぎ散らした着物の中から帯を探っていると、途端に直政は大人しくなった。
 わかった。わかったからそれだけは止めてくれ。
 頼む、と弱い声でそう訴えて、それからは本当に何をしてもどんな無体を加えても、一切抵抗する素振りは見せない。
 身体に証しの残ることはせぬというのが二人の間の暗黙の取り決め、と思っているのは実際のところ直政だけで、高虎にしてみればそんなことはどうでも良い。
 どうでも良いが、本気で嫌だというのを無理を強いてメ次モを失うのも本末転倒。何より力づくで陵辱を与えるような無粋は好みではない。
 だから代わりに高虎は口づけをする。
 際も近くなって、ことのはじめは硬くひき結んでいた唇が、はあはあと荒く息をつく頃合いを見計らって舌を差し入れる。
 乾いた口内を舐めて濡らし、唾を注ぐとよほど飢えていたのか喉がごくりと大きく動いてそれを飲み下す。
 もうほとんど無意識なのだろうが、仕舞いには直政の方から舌を絡ませて来て、咥内から逃げ出してしまった高虎を追いかけてさえ来る。
 口の周りから顎にあごの辺りまでをひどく汚しながら、無謀にも這い出して来た直政の舌は真っ赤に色づいて大層艶かしく、まるで腸
(はらわた)が口から漏れ出たように見える。
 それを舌を唇で挟み込んで捉え、きつく吸い上げて、その先端に前歯を立てる。
 噛み切るつもりなど毛頭無いが、突然の痛みに混乱した直政が咄嗟に顔を引こうとするのを後ろ頭から両手で押え込んで高虎はこの乱暴に過ぎる口づけを長く続けた。
 跡を遺すことが許されるとしたら、高虎にはこんなところ以外に余地はない。
 大した傷ではないから数日もせぬうちに跡形も無くきえてしまうが、何かものを口に入れる度にそれはぢくぢくと不快に小さな痛みを生むだろう。
 そうしてその度に、直政は高虎のことを思い出すだろう。
 傷ついて傷ついてそれこそ死ぬほど傷ついてそれでも笑って生きるこの人を、自分までもが傷つけてどうとする。
 けれど高虎にはそんなやり方でしか、痛む己の胸のうちを教える術が他に無い。




  

  

 
   

     


じゃあ結局、井伊さんを救えるのは誰よ?と言ったらそんな人間はこの世に居ない
高虎さんでもいえやっさまでも無理なのです
だってきっと、救いなんて井伊さんは求めていないから
求めていないものを与えることなんて、誰にだって不可能だから
それが彼の強さであり脆さであることは皆知っているのだけれども

戦いの最中の井伊さんはトランスとかベルセル.クとかゾーン突入とかの状態だった良いと思います
ランナーズ・ハイよりももっと唐突で鮮烈な恍惚状態
わたしはよく(文章の中で)ドーピングでこれを解決しようとするけど、
実際のところ脳内麻薬ってどんな薬よりも最大最強らしいですね
一度そういう状態を知ってしまったらそれが忘れられなくて何度もそこに行こうとするのだけれど、
それは人が容易に立ち入ってはいけない場所だからいつか帰ってこれなくなる日が必ず来るのです