「あの娘--。」

 
近習の咎めるような声に、吉継は彼の方に首を向けた。
 

「あの娘は何者です。何故このような場にいるのです。」

 
「ああ、あれは左近殿からの預かりモノだ。」

 
主人の短い説明に得心せず彼は続けて、年端もいかぬ娘が陣内をうろつくのはいかがなものかと声に刺を滲ませる。
 

「五助、その娘は左近殿のご息女だぞ。」

 
しかし、だからといって、あのような成りで。
言いかけて盲目の主人の手前、はっと口をつぐむ。

 
「構わないから彼女がどのような姿なのか事細かに教えておくれ。」

 
促すと彼は堰を切ったように彼女の姿を己の見たままに語り始めた。
それによると、 彼女は小さく、幼く、防具の類いはいっさい着けず、どこに隠しているのか武具を持たず、愛玩用の小動物までも伴っているのだという。
つまりはどうやら彼女はこの場にはおよそ似つかわしくない格好で、無遠慮にそこらを歩き回っているらしい。
確かに先程自分と会話を交わしたその声は女の艶を未だ得ず、それでいて淀み無く凛と大人びていたと吉継は思い起こす。
親友の家老から娘を一時預かってほしいと頼まれた時に戦場に女を送って寄越すとはと驚いたものだが、それ以上に彼女が随分と年若であることを知った時には吉継とて今の彼と同様の憤りを感じなかった訳ではない。

 
「あのような者に何ができるというのでしょう。兵たちは戦を前に猛っております。士気にもかかわる。だのに。」

 
「人を見かけで判断してはいけないよ。」

 
募る訴えを遮った主人の言葉は重く彼を沈ませた。

 
「まあ、お前が惑わされるのも仕方ない。」

 

あれは鬼の娘なのだから。

 
彼とて悪気があったわけではない。それは分かっている。
むしろ少女の身の上を案じてこその進言だったと吉継にその心根は知れている。
だからこそ教えてやらねばならない。
柔らかに深く教えておかねばならない。
どんなに稚(いとけな)い姿をしてはいても鬼の子もまた鬼。

 

人ではないのだ。
 




  

  

 
   

     


でも私は(どんなに見た目は崩れても)人間だよ!ということが言いたい大谷
罪の無い小娘にまで明日の見えない苛立をぶつけるアラフォー

たまきは戦の鬼の左近が自分の全部を注ぎ込んで作り上げた最強のキルマシーンです