-お前なんか道具のくせに!!
額から血を流した少年が金切り声で叫んでいる。
その言葉が自分に向けられたものだと気づくのに、たまきは少し時間がかかった。
この人はなにを言っているのだろう。
剣の腕比べをしよう、と誘って来たのは少年の方だ。
たまきはそれを断りきれずに従っただけ。
この屋敷の中では嫡男である彼の方が、たまきよりはるかに立場は上であったから。
だが剣術では彼はこの2つ年下の腹違いの妹に遠く及ばなかった。
2、3回打ち合ったところでいとも簡単に刀をはじき飛ばされ、逆上してつかみ掛かって来たところを脳天に太刀を喰らい、額を割って地べたに倒れ込んだ。
--お前なんか父上が殿の為に作った道具だ。
壊れても代わりなんていくらでもいる!
用済みになったらお払い箱なんだ!
お前の、
「信勝。」
母親みたいに、と言いかけたところに頭上から少年の名を呼ぶ声が覆いかける。
凍えるような冷たいそれに、少年はびくり、と肩を振るわせた。
二人が目をやった縁側には、いつのまにか父の姿があった。
いつから見ていたのだろう。
勝負の途中からであったのなら止めてくれれば良かったのに。
日々稽古をつけている父には、少年の力量では到底たまきに勝てないことなど分かっていたはずだ。
そうすれば少年は血を流さずに、たまきは心を抉られずに済んだ。
黙ったままのたまきには目もくれず、少年は傍らに転がった木刀を拾い上げると一礼してそそくさとその場を退出していった。
後には父と娘だけが残される。
--お兄さまの言った事は本当なの?
そう聞いてみたい気もしたが、己に向けられる無機質な父の眼差しを見ればたまきにはその答えがわかっていた。
その少年も、あの戦で死んだ。
藤堂の家中の者を相手に討ち取った最期は島家の嫡男として名に恥じぬ武者ぶりであったと生き残った者は語っていた。
だが、父が死んだ息子の名を口にするのをたまきは一度も聞いた事が無い。
弔う気配も露程も見せない。
思い出されることの無い死者はまるで最初からいなかったかのようだ。
あの時彼はどんな思いでたまきを道具と呼んだのだろう。
自分は違う、と叫びたかったのかも知れない。
愚かなことだ。
彼もわたしも、父さまにとっては道具に変わりないのに。
違うとすれば、その役目が少し異なっているだけ。
ただ、それだけ。
それだけで家名の為に彼は死に、たまきは今も父の為に生かされている。
采配では存在が抹殺されている左近の息子さんですが、 関ヶ原では大谷さんの陣に預けられていたというのを読んだことがあります
てことは抹殺ではなくたまきに統合された?
あれ?大谷さんちに預けられてたのは殿の息子?
いろいろ混じってわからなくなってきましたが、藤堂の甥っ子と相打ちになった彼 名前はしばりょー先生の関ヶ原から
『兄をフルボッコにする妹』は無限の住人オマージュ
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