死にネタ、グロを含みます
そのうえ二人ともひどいことになっています
それでも大丈夫、という方は下へスクロールしてくださいませ

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三成が刑に処されてから数日後、その事件は起きた。
 番をしていた刑吏が斬られ、晒されていた首が持ち去られた。
 月の無い番の事、目撃者も無く、ついに首は還らぬかと思われたその矢先。
 一人の男が自ら三成の首を盗んだのだと京の奉行所の門前に名乗り出たのである。
 事が事だけに、極秘裏に家康が謁見することとなり、庭の白州に引き出された男は言葉に淀むことなく語った。

 

 

 三成様の御首級を盗んだのは私でございます。
 ええ、島の左近様の命でございました。
 左近様はその頃、ようやく床から身を起こされるほどに回復なさっておいでで、私が盗んだ首を差し出しますとさも愛おしそうにお手に取られてこう申されました。


 殿、やっとお会い出来ましたなぁ。

 それから、左近様は人をお近づけにならなくなりました。まだ治りきらぬ傷の手当すらお断りになり、お食事もお部屋の前に膳を置かせます。
 ご所望になるのは、ただ、女の使う櫛と紅とおしろい。そして時々、花と酒を。
 決して部屋を見るな、と左近様はおっしゃいました。
 けれど秘すれば秘するほど、左近様が首をどのようにお弔いになっているのか興味が沸きまして、私も忍びの端くれでございますから、ある日そっと天井裏に入り込んでそこから見てしまったのでございます。
 それはたいそう奇麗な首でございました。髪を梳られ、死斑を白粉で隠し、紅を佩いた唇はいまにも言葉を紡ぎだしそうなのです。左近様はそれに杯を含ませてやっている最中でありました。

 殿、左近は殿に言いましたなぁ。
 どうか殿、お生きくださいませ。
 殿のために左近も逝きます。
 殿が生きておられれば、左近はどのような姿になってもお迎えに参ります。
 左近はお約束を果たせませなんだ。左近ばかりが無様に生き延びて、殿がかようなお姿になって、このような理不尽、どうぞ左近を叱ってくださいませ。
 殿、殿、どうか、左近を。

 いくら問いかけても首から返事があるはずもございません。
 左近様は日がな一日、そうして首に化粧を施したり話りかけたりされていたのでございます。
 鬼の左近と呼ばれたあのお方が、何かに取り憑かれたようなその様がそれは恐ろしく、以来、私は部屋を覗く事も止めてしまいました。
 

 

 けれど、この世に不変の物など無いのでございます。

 

 
 数日の経つうちに左近様のお部屋から何やら嫌な臭いがしてまいりました。
 左近様は香を所望され、しばらくはそれを薫いていらっしゃったようでしたが、臭いはだんだんと強くなるばかりです。
 遊郭も客商売。いくらなんでもこれでは、と店の主人が言いますもので、私も心配になり、襖を叩き左近様を呼びました。けれど、いくらお名前を御呼びしても返事がございません。それどころか物音ひとつ、しないのでございます。
 私は嫌な予感がして、部屋の中へと押し入りました。

 
 果たしてそこにあったのは、この世のものならぬ光景でありました。
 私も随分と戦場に立って参りましたが、あれほど凄惨な、けれど美しい光景は見た事がございません。
 きつく薫きしめられた香の中で、左近様は既に事切れておいででした。近くにはご愛刀が血に濡れて転がっております。そうしてその御身から流れ出た血の池に、あたかも蓮の花が泥の泉から芽吹くようにしてあったのは、花に埋もれ白粉と紅とにまみれて、どこが鼻でどこが口とも分からぬほど腐乱した、いいえ、あれはもはや首とも呼べる物ではなく一個の肉の成れの果てでありました。
 

 

 さあ、私の見聞きした事はこれで全てございます。
 私の主人も、もうこの世にはおりません。この上は一刻も早いお裁きを何卒お願い申し上げます。

  

   

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 終劇 

  

 

 

 


  

初連載、終わりました
エンディングはFollowMe。映画『イノセンス』のテーマで