「ぎにゃぁぁぁぁぁ!!!!」
「こらっ、静かにしろ。あばれるな。」
シャワーを浴びせかけられ、それしかなかったから人間用のシャンプーを全身に塗りたくられる。
左近のおじさまの太い指ががしがしとあたしの身体を、まるで鶏の毛でもむしるみたいに引っ掻き回す。
これはもう虐待よぅ。きっと動物愛護団体に訴えてやるんだから。
すっかりぐったりしてバスルームから帰って来たあたしに三成様がドライヤーを当ててくれた。
「なんだか元気ないけど...どうしたのかなぁ?」
「さぁ?お腹でも空いてるんじゃないですか。」
何とぼけてんのよ、あんたにめちゃくちゃに洗われたせいだわよ。
ああ、もう疲れた。
暖かい風と脇腹を撫でる三成様の手が気持ちいい。
これでお腹がいっぱいになったらもう最高なんだけど...。
「まだ子供みたいだから、こんなので大丈夫でしょう。」
ワイシャツをまくり上げたおじさまの腕があたしの鼻先に差し出したのは
パンの柔らかいところをミルクで煮込んだ餌だった。
まだ湯気の立つそれに恐る恐る顔を近づけてみる。いいにおい。
舌を差し出してみる。思ったより熱くない。ちゃんと冷ましてくれたのね。
あたしはヒゲごとお皿に顔をつっこんで、そしてすごい勢いで食べちゃった。
左近のおじさまってホントに何でも出来るのね。猫の餌だってこんなに美味しいなんてけっこうすごい。
「さて、俺たちも夕ご飯にしましょう。」
ダイニングテーブルにはいつのまにか料理のお皿が並べられていた。
「ハンバーグだな!左近、ありがとう。いただきます。」
あちらこちらへ箸を動かしながら、弾む声で三成様が今日一日の出来事をおじさまに報告している。
その中にはあたしのこともちゃんと入っていて、ちょっと照れくさくて、すごくうれしい。
おじさまはそれにいちいち頷いて聞くふりをしながら、本当は三成様の楽しそうな笑顔に見とれているんだわ。
あたしがご飯を食べるのはいつもひとり。お父様は仕事がお忙しいんだから仕方ない。
小さい頃からずっとそうだったんだから別に平気なはずなのに、こんな幸せそうな食卓の光景を眺めているとやっぱりうらやましくなる。
でも不思議と腹は立たないの。
好きな人にいつだって笑っていて欲しいと思うのは当然のことだものね。
心までお腹がいっぱいになったあたしはうとうとしながら二人を眺めていたんだけど、毛足の長いカーペットの上で手足を伸ばしてみたら気持ち良くなって本当に眠ってしまった。
どれくらい寝ていたんだろう。
目を開けると部屋の照明は落とされていて、ソファの脇のフロアライトだけが柔らかく室内を照らしている。
三成様?左近のおじさま?
二人の姿を探そうと身を起こして辺りを見回すとソファの上に微かに動く人影。
耳を済ませてみれば、控えめではあったけれどいつもより早く強い吐息と布が擦れ合う音。
しばらくするとそこにくちゅ、とかぴちゃ、とか小さな水音が加わった。
あたしはそっと、忍び足でふたりの側まで移動する。
覗き見なんて趣味ではないけど好奇心には勝てなかった。
いいの、今は猫なんだから。
普段なら見れないもの、見るためにこんな格好になったんだから。
仰向けになった三成様におじさまが馬乗りになる格好でふたりは重なり合っていた。
「さ...こん..。」
おじさまの顔が離れて、ほんの少しだけ隙間を許された三成様の唇が名前を呼ぶ。
三成様のお顔は薄暗い室内でもわかるくらい頬が紅潮して、瞳なんて潤みきって蕩けそうになってた。
口づけている間も三成様のシャツの中に潜り込んだおじさまの指は、多分、そこにある突起を弄んでいたんだわ。
それが痛いのか、気持ちいいのか、もう止めて欲しいのか、もっとして欲しいのか。むずがる子供のように三成様は頭を振った。
「殿、もう、こっち触って欲しいんでしょ。」
おじさまの指が裸にたくし上げられた三成様のお腹を伝ってズボンのジッパーを下ろす。
恥ずかしくなったのか、顔を背けた三成様のやり場無く床に落とされた目線があたしのそれと合ってしまった。
「あっ、だめ...さこ..ん..猫が見て..ぁっ。」
焦った三成様は抵抗をしたようだったけどおじさまの指はもう下着の中だ。
「でも、殿、もうこんなになってますよ。猫に見られたって興奮するんだから仕方の無い人だ。」
くつくつと低い声でおじさまが笑う。随分意地悪に思えるけれど、三成様はそんな言葉にも肌を震わせている。
「ちがっ...そんな..ことっ..ひゃぁっ!」
おじさまの指が器用に動く度に、三成様が漏らす甲高い嬌声は壮絶に色っぽいかった。
さらにイイ声を引き出そうとおじさまがズボンを下着ごと引き抜き、三成様の足の間に顔を埋める。
真っ白で長い足をおじさまの肩に絡ませて三成様の身体が大きく撓った。
「殿..。」
顔をあげたおじさまの口元はてらてらと濡れ光って三成様のそことの間に銀の糸を引いた。
名前を呼ばれた三成様は胸を上下させながら、こくりと一つ頷く。
それからはもう、おじさまも三成様も、ほとんど言葉を交わさなかった。
こういう時って、もっと歯の浮くような台詞がばしばし飛び交う物だと思っていたの。
可愛いよとか、君はキレイだとか、最高の気分だよ、なんてね。
でももしかしたら言葉ってそんなに重要ではないのかもしれない。むしろ必要ないのかも。
本当に相手が自分だけを見ているんだって分かれば、それで十分なんだわ。
おじさまの手があたしのとそう変わらないほど細い足首をつかんで三成様の身体は二つ折りにされる。ひゅぅ、と圧迫された肺から押し出された空気が三成様の喉を鳴らした。
そのままおじさまの大きな身体が覆い被さって、華奢な身体を揺さぶる。
シフォンケーキを取りこぼしたり、ミルクティを啜ったり、どこかはにかんだ笑顔を浮かべる三成様の唇。
あたしが見つめてきたはずのそれが、今はあたしの想像すらしたことのない艶めいた嗚咽をひっきりなしに漏らす。
いっそう激しく身体を痙攣させて喉の奥から引き絞るような悲鳴をあげた後、三成様の身体はぐったりとソファに沈み込んだ。
おじさまもしばらくは肩で荒い息をしていたけれど、やがてゆっくりと身体を離す。そしてソファから降りて、気を失ってしまった三成様の顔を見つめている。
その時のおじさまの顔。それほどはっきり見えたわけではないけれど、あたしの心に強く焼き付いた。
悲しくて、切なくて、けれど何より愛おしい。
例えば、二度と会えないって知ってて別れる恋人たちがあんな顔をするんじゃないかしら。
あたしにはまだよくわからないけど、アレって気持ちいいことなんでしょう。
好きな人と一番近くで触れ合えたら、きっとすごくドキドキして夢見心地になる。あたしだったら、多分、そう。
なのに、なんでそんな顔をするんだろう。
あたしだけが見てしまった、見てはいけないもの。
三成様の知らない、おじさまの心の奥。
翌日、人間に戻ったあたしはあのお店を探したけど、昨日までそれが会ったはずの場所はただの壁になっていた。
なんにしたって効果はあったわけだからお金を払わなきゃいけないのに。
確かに普通なら見られないようなものを見ちゃったけど、それが良かったのか悪かったのか正直わからない。
三成様とおじさまのこと、もっとよく知ればこれからあたしがどうすればいいのか、考えられると思ったの。考えなきゃいけないって思ったのよ。
でも、ますます難しくなっちゃったわ。
あたしにできること。あたしたちが幸せになれることってなんだろう。
そんなことってホントにあるのかな?
初芽ちゃんは見た! 今後の展望に関しては彼女なりにいろいろ考えているようです
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