「みつなりさま、御手が冷とうございます。」

 

 確実な意図をもって胸の中に抱き込んだ手をその人は振り払いもせず、逆に彼女の指の上に空いた片手を重ねあげて、ほぅと白い息を吹きかけた。

 

「はつの方が冷たい。ほら、こんな、爪先が珊瑚みたいに紅くなって。」
  

そうしてにっこりと、まるで重く垂れた冬の雲を割る陽のような顔をして、彼女のその手を取る。

 

「行こう、左近が待ってる。」

 

 いつかのあの日のように、自分には背を向けたまま前だけを見て進む彼に引かれながら彼女は目の眩むような絶望に捕われる。

 

--みつなりさま。みつなりさま。

 

 決して後ろを振り向かない笑顔に、今にも叫び出しそうになるのを耐えて。

 

この手にはなにも感じません。
私の冷たさも、貴方のぬくもりも。

この手にはなにもありません。
私の過去も、貴方の未来も。

この手にはなにもつかめません。
私の現実も、貴方の夢も。

 

だから、でも、どうか、お願い。

 
 
あと少しだけ、この手を離さないで。
貴方を信じさせていて。




  

  

 
   

     


リリカルポエム!