「まずは着物を脱いでもらいましょうか。」

 
 布団の上に上がる事すら許されず、畳に正座させられた三成の前に立ちはだかった左近の言葉は、常の閨で聞こえる甘いものではなくなっていた。
 傍らにあっては頼もしいはずのたくましい長身もこうして見下ろされると、とてつもない威圧感もっていることに気付く。
 いまひとつ腑に落ちないところがあるものの三成は意を決して一気に袖を抜き、上半身をはだけさせた。
 

「違います!」
  

 途端に左近の叱咤が飛んでくる。
 

「風呂に入るんじゃないんですよ。

 もっとゆっくり、俺がその気になるように脱いでくださいよ。」

「なっ..。」

 いつもなら左近に口づけを施されながら気がつけばすっかり脱がされている、というのがお決まりのコース。施されるのが当然となっている三成にはその気にさせろ、と言われたところでどうして良いものか皆目検討もつかない。
 とりあえず一度抜いた袖を通し直し、左近の言うがごとく、ゆっくりと肩袖ずつ落として行く。まだ上半身をはだけただけどいうのに夜のひんやりした空気とは違った、身体の芯から走る冷たさに三成は身を震わせた。
 

「下もご自分でどうぞ。」
 

 しぶしぶと袴の帯に手をかけ、下肢から取り去る。
 唯一残された下帯に手をかけた止まっている三成に左近はさらに追い討ちをかけた。
 

「まだ、たりないでしょう。言わなければわかりませんか?」
 

 覚悟はしていたものの左近の言葉に三成はびくり、と肩を振るわせた。
 これまで何度も、体中のどんな場所でもさらけ出し合って来たのに。
 どうしてこうも恥ずかしいのだろう。
 顔を真っ赤に染めて俯いたまま、それでも三成は自らの手で下帯をほどいた。
 

「よくできましたね。
 

 次は、そうですね、こちらにむかって足を開いてください。」
 

「なっ..そんなこと..。」
「おや、いつもやっていることではありませんか。
 

 左近は何度も殿の恥ずかしいところを見ているのに、今更躊躇されることではないでしょう。」
 それはそうなのだが。
 間近でみられるのと、こうして距離をおいて観察するように眺められるのでは全く意味が違う。
 左近はそれを知って知らずか、素知らぬ顔で紅潮していく三成の身体をじっと見つめている。
 

「さあ、お早く。」
 

 低い言葉に背を押され、三成は尻餅をつくような格好に座り直した。
 前に折って突き出していた両足をゆっくりと開いて行く。ゆっくりとやればやるほど、羞恥は増すのだが、今の三成はそんなことにも気付いていない。ただ、亀の這うようにゆっくりと両足を広げて行く。
 

「もっと、です。」
 

 膝を肩幅に開き、やっとこれで、と思ったところで左近がさらなる要求を突きつける。
 結局三成は左近の許可が出るまで、内股の筋が浮き出るほど足を広げねばならなかった。自然、その間にある性器は竿ばかりかその付け根の膨らみまでもが丸見えとなっている。
 

「おや、これだけで、もう?」
 

 嘲笑をまじえながら左近はそれをしげしげと見つめた。
 これまでの羞恥の連続で、快楽とは関係なく三成のそこは軽く立ち上がり、先端はぬめりすら帯びている。
 

「こっ..これはっ!」
「これは?これはなんなんです?」
 

 くっ、とみつなりは唇を噛み締める。ここで何を言ったところで無駄なのだ。
 今は左近が主人、そして自分は口ごたえの許されない召使い、そういう取り決めなのだから。
 

「そうだ、そのままではお辛いでしょう。
 

 せっかくですからそれを慰めても良いのですよ。」
 肩頬をつり上げた左近の笑顔に三成が逆らえるはずも無かった。

 そっと、壊れ物にでもふれるようにおそるおそる自分の性器に手を伸ばす。
 左近の言った通り確かにそこは熱を持って刺激を待ちわびていた。
 おずおずと握り込み、軽く上下にさすってみる。
 

「そうじゃないでしょう。
 殿はいつもご自分でされる時、そのように遠慮がちになさるのですか?」
 

 もっと乱れてみせろ、と左近は命じているのだ。
 確かにこの刺激ではいつまでたっても果ては得られない。ということはこの屈辱の終わりも訪れないという事。
 

「くっそ..。」
 

 意を決して三成は性器を握る手に力を込めた。
 瞳を閉じ、射精に至るイメージを探る。そこには、今は高みの見物を決め込んでいる男の姿があった。
--殿、気持ちよいでしょう。
 頭の中の、優しい左近は強すぎる一歩手前、絶妙な力加減で男根を握ってくれる。初めはゆっくりと次第に速度を速め、最後は信じられないくらい早く擦り上げられる。
 ああ、もう、イく。そう思った瞬間、意地悪な指は離れる。
--まだですよ。もっと楽しみましょうね。
 今度は先端近くのくびれを握り込んだまま、丸い切っ先と、そこの中心にある小さな孔を爪先で嬲る。
 

「ふぅ..んぁ..!」
 

 自らの手にむき出しの神経をくすぐられて、痛みと同時に駆け抜ける快感。頭の裏側がじんじんと痺れるような感覚は頂点の前兆。
 

「もっ..もっ..でるっ!でる、さこぉ ..ん!!」
 

 とっさに先端を両手で押さえるものの、それを塞き止められるはずもなく、三成の白い指の間からは粘度の高い液体が止まる事無く流れ落ちて行った。

 

 

 

 

 長い放出から解放された後、三成は仰向けに倒れ込むと、両の腕で顔を覆って動こうとしなかった。腕の間からはぐすぐすという水音、啜り泣きが漏れ聞こえてくる。
 

「もういいんですよ、殿。」
  

 やさしく髪を撫でてくれているのはいつもの左近。
 お互い同意の上での行為のはずが、何故自分ばかりがこんな目に。
 これではまんまとだまされただけではないか。
 そう思うと悔しくて、情け無くて、恥ずかしくて。子供みたいに涙が止まらない。
 

「ひゃっく..さっ..さこんのっ..ひゃっく..鬼っ!人でなしっ!!
 

 おれっ、おれ..ばっかりっ..ひゃっく!」
 嗚咽まじりの唇を左近は自分のそれで優しく塞いでなだめる。
 

「ええ。左近は十分に堪能させていただきましたから。
 

 次はご主人様から上手にできたご褒美をさしあげましょうね。」
 結局のところ、鬼と呼ばれようが人でなしと罵られようが、可愛い召使いにはとろけるように甘いご主人様はその後一晩かけて召使いに彼の望むままのご褒美を与えたのであった。

 

 

 

 


 


前半を書いた時とのタイムラグのせいで
全然ご主人様と召し使いごっこになりませんでした。撃沈