私は貴方のお月様
夜道もやさしく照らしてあげる

でも

月に一度はお休みするし
決して裏側は見せないの

 

 

 

 

 

 ちらちらと、手にした雑誌を離れて、こちらを見る視線にはとっくに気付いている。

 

「どうした三成、もう眠るか?明日は早いんだろう?」

 

 コーヒーの入ったマグカップをテーブルに置き、たった今それに気付いた振りをして、はぐらかした問いに三成は少し困ったような怒ったような顔で首を横に振った。
 しばらく落ち着き無く視線を泳がせた末に、くっ、と小さく息を飲んで意を決しやっとのことで口を開く。

 

「なあ、吉継、今日も寝る前にアレ、してほしい。」

 

 それだけを告げて、いたたまれなそうに顔をうつむけてしまった彼に、仕方の無い子だ、と穏やかな微笑みを返してやる。
 手招きで近くに来るように促すと素直な彼は途端に喜色を露にした。
 子犬の仕草で身体を擦り寄せる彼の、パジャマのボタンを上から順にひとつずつ外させて、くつろげたそこからは淡いボディソープの香りがふんわりと立ち上った。
  

 

 
  
  

 
 額と額をぴたりと密着させて、間近に感じる熱い吐息。
 すぐ目の前のだらしなく開いた唇を啄みながら、手の中に捕らえたむき出しのペニスを愛撫する。
 先端から溢れたどろりと濃い体液は指先から手首まで伝って汚し、扱きあげるたびにぐちぐちと淫猥な水音を立てた。
  

「悦いか、三成?」
  

 恋人は固く目を閉じたまま何度も頷いて、いっそう腰を押し付けてくる。
 初めて彼とこういうことになった時から、今だって、この身体はおそろしく未成熟のまま。
 性的な刺激といったものに関してはおよそ経験が乏しくで、自分と出逢うまでは一体どうしていたのかと尋ねた吉継にこの年若い恋人は顔を真っ赤に染めて、自分でも満足に触れた事が無いのだと告白した。

 

「だから、こんなに気持ちイイのは吉継が本当に初めてなんだ。」

 

 それが真実である証拠に与えられる快楽に溺れる有様はあまりに初々しく、愛おしく、彼の望むまま、望むものを際限なく与えてやりたくなる。
 いつのときも心地良さだけを感じるように。
 彼と吉継との関係は万事がそのように進行していく。
 快適で優しく居心地の良いそれを保つ為に、吉継がどれほどの苦悩と忍耐を受入れているかなど三成は知らない。

 

「おなかっ、おなかのなか、きゅうってするんだ。もっと..もっと、」

 

 すっかり惚けたような声。
 平素の仕草にも少年らしさを色濃く残す彼の哀願はいっそう幼い。

 

「もっと、“強く”?それとも“たくさん”?」

 

 ああ、どっちも、とすんすんと鼻を鳴らしながら三成は啼く。
 握り込んだ手に込めた力を増すと、うっすら汗をかいた裸の胸がぐんとしならせ、身もだえる。

 

「いっ...イい..いだ..いっ。イ..ッ。」

 

 苦痛と快楽と、どちらなのかと問えば、やはりまた彼は、どちらも、と答えて唇を噛み締めた。
 本当ならばもっと苛めてやりたい。
 こんな単純な愛撫だけでなく、思いつく限りの技巧を凝らして弄んでやりたい。
 果ては、深く深く己を刻み付けてやりたい。
 けれどそれをしてしまえば、この関係はきっと永遠に失われてしまうのだろう。
 せめても、と青く血管の透ける首筋を甘く噛めば、そこから滲み出す痺れが駆け巡る血液にとけ込んであっという間に体中を侵す。
 抗う術も無く三成はただ意味のない喘ぎを漏らし続け、それも喉に詰まるようになったのを頃合いに吉継は彼を責める手をいっそう激しいものとする。

 

「三成、出して?」
  

「..ぁアっ!」
  

 はち切れそうに膨れ上がった先端から、引き攣れた叫びと共にたっぷりと精が吹き上がる。
 長くをかけて全部を吐き尽くし、緊張し続けていた肩を落として三成の身体は弛緩した。
 息が整うのを待ち、紅潮した頬に口づけて吉継は恋人の耳元にそっと囁いた。

 

「三成、私のも。」
  

 身体の横にだらり力なく垂れた手を取って己の脚の間に導くと、涙の膜に覆われた瞳が一瞬揺れて、それでも彼は戸惑いがちに吉継の熱に触れた。
 
  
  

 

 

  

 

 両の手で包込むようにして擦り上げる動作は単純で機微に乏しく稚拙そのものだったが、それが恋しい相手に直接触れられているというただそれだけのことが、吉継をどこまでも昂らせる。

 

「ど、どうだろう?」
  

 首を傾げていかにも不安げに尋ねる彼に、吉継は苦く笑った。
 不快なはずがない。
 彼の少年のような指の絡む先はこんなにも硬く脈打っている。
  

「悦いよ、君の手に触れられるのは何より心地良い。」

  

 そう教えてやると三成はいかにもうれしげに破顔してみせる。
 微塵の淫猥も無いその笑顔が、吉継には少しだけ辛い。

  

「な、なぁ...よしつぐ。」

 

 上目遣いで名を呼ぶ彼の声は施す側に回ったはずであるのにもかかわらず掠れていた。

 

「またしたくなった?」

 

 言わずともその仕草ですぐに彼の求める事は伝わった。
 もじもじと落ち着き無く擦り合わせている脚の間、つい先程まで可愛がっていたばかりのその場所に手を伸ばすと、案の定、そこは再び熱を持ち始めている。

 

「さっき出したばかりなのに、私のを触っていて興奮したんだろう。
 いやらしい子だ、三成は。」

 

 くすくすと笑いながら弄られて、違う、と頭を振ってみても肉体的な事実は隠しようも無く。

 

「一緒にしようか。」

 

 恐れを抱かせぬように、ことさら優しい声色で囁いて向かい合った姿勢を狭めた。
 出来る限りに抱き寄せて、背を反らし、脚の付け根同士が絡み合うことのできる距離まで。

 

「あっ、や..なに。」

 

 想いも寄らぬ行動に驚き逃げ出しそうになる腰を押さえ、吉継は自らのものを三成のそれに直接触れさせた。

 

「こんなっ..ぁ!」

 

 互いのぬめりで滑るのをまとめあげて掌に包込みこむ。
 一番敏感になっている箇所に、直接感じる灼熱に始めのうちこそ戸惑っていたものの重なり合う温かさと指とは違う柔らかな感触に三成はすぐに溺れる。

 

「すごっ..ぬるぬるするっ。」

 

 張り出した縁で掻き合い、浮きあがった裏筋を押し付ける。
 先走りをまき散らしながら繰り返される獣じみた動作に、もはや躊躇や恥じらいは微塵も無い。
 人の手に任せるだけではもの足り無く感じて、三成もまた手を添えて己の好いように動かし始めてしまう。
 がむしゃらで、一途で、まっすぐ。そんな彼の性格そのままの愛撫に、この遊戯に誘ったのは吉継のほうが逆に責め立てられている想いに捕われる。
 血管が激しく脈打つのも、表面の筋肉が細かく痙攣するのも、それが自分のものなのか、彼の人のものであるのか区別がつかない。

 

「みつなりっ、みつなり。」

 

 無意識に紅く熟れた唇からはみ出した舌を突つき合い、絡めとり、きつく吸い上げる合間に必死に互いの名を呼ぶ。
 ぐちゅぐちゅと滴る生温かな体液に顔も下肢も隙間無く汚しながら、それがもはやどちらのものかも分からないまま啜り合っていると、本当にひとつに解け合えるような気さえする。

 

「よしつぐっ、イくよ、もうイく..っ。」

 

 切羽詰まった嗚咽は、終わりがすぐそこまで来ている事を告げていた。
 どれほど望んでもこのままずっとひとつではいられないから。
 それなら、せめて、

 

「あっ、ああ、みつなりっ、いっしょ、いっしょに。」

 

 柔らかな髪に鼻先を埋めてその身体に縋る。
 ふたつの身体の間できつく挟み込まれた雄が弾けたのはほとんど同時だった。
 吹き出した濁流が痙攣する下腹や太腿を白く染めながら流れて落ちて行く。
 外気にふれたそれがゆっくりと冷えて固まるまでの、あと、ほんの一時だけはお互いの熱に溺れていたい。
 失われた熱の名残を惜しむかのように、ふたつの身体は抱き締め合ったまま離れようとはしなかった。
  

 
  

 

 

  

 肩に頭を預けたまま呆然と吐精の余韻に浸っていた三成は恋人の行動にぴくり、と顔を上げた。
 彼の裸の腰を抱いていた吉継の指が、そっと触れた先は後ろの奥深い窄まり。
 
「なに..?」
 
 問いには答えずに、固く閉ざされた襞をゆるゆると撫でていると、三成の口からはくすくすと無邪気な笑い声が漏れる。
 
「くすぐったいよ。変なところさわらないでくれ。」

 どうやら彼は単にそれを恋人の悪ふざけだと思い込んでいるらしい。
 ここで、もっと深い悦を得る術を彼はまだ知らない。
 身体を交わらせる事の本当の意味も。
 吉継は曖昧に笑い返して指を引く。
 さりげなさを装って腰に回した手を背に登らせ、ただ親愛の情だけを纏わせて包込むように抱き締めてやる。
 ゆっくりと浮き出た骨に添って撫でていると、ぬくもりに安堵したのか恋人は大きく欠伸をした。

「疲れた。吉継、眠い。もう、寝よう?」

 今にも塞がりそうな瞼にキスを落として、むずかる恋人に着替えを促し、寝支度をさせる自分はまるで母親のようだ。
 もしかしたら、とこんな時に吉継はふと考える事がある。
 彼の未分化な愛情は肉親に対するそれも、恋人に対するそれも、大差ないのではないだろうか。
 彼にとっての自分は、保護者であり、兄弟であり、親友であり、時々恋人。
 それでも一緒にいられる事実を大切にするべきなのだろうけれど。
 
  

 

 
 
「吉継とこういうことするのは、好きだな。」

 

 ベッドの中、寝言のように鈍い舌で三成が呟く。

 

「吉継は上手にしてくれるから一人でするより気持ちいいし、それに、」
 

 あったかい、と布団を耳元まで引き上げる彼はもうほとんど夢の中。
 

 

「そうか、君が悦んでくれるのは私もうれしい。」

 

「うん。じゃ、また、しよう。おやすみ。」

 

 間を置かずに聞こえ始めた寝息をすぐ隣に、ひとり眠れぬままじっと天井を見つめる。
 お互いを慰め合って、欲望を吐き出して、並んで眠る。
 それだけが今の二人の全て。
 これより先を教えずに居るのは自身が選んだことであるのだけれど、この安らかな時間を無上の幸福と信じたいと願うのだけれど。
 熱の冷めた胸の奥、こんなものでは満たされない、もっと欲しいと叫ぶ貪欲を飼い殺しながら、吉継は夜を噛み締める。




  

  

 
   

     


ぶっちゃけヤりたくて仕方ない、性欲を持て余す刑部