細い、男にしてはあまりに細い三成の身体が王の腕の中でのたうつのを妲己はぼんやりと眺めていた。
 裸身に薄物一枚だけをまとい、広い寝台の端に肢体を投げ出して指一本動かせず、股の間を王の放った淫液と、己から染みでた愛液でしとどに濡らしたままで。時折、体内に留まったそれがごぽりと音を立てて溢れてきたが、それをぬぐい去る気になれないほど彼女は疲れ切っていた。
 王が三成を抱くのは決まって妲己を抱き潰した後だ。
 人外の彼女の身でさえ、王の情欲を受け止めるのは辛い。
 命のすべてを吸い尽くされそうな気になる。
 だから己の激しさを知る王はこの脆弱な人間の男を壊してしまわないために、妲己の中に有り余る精を排泄してしまってそれから、取り分けておいた甘い果実を慈しんで口にするように男を抱く。

 
 最初はほんの戯れだと思っていた。
 部下の命、なんてちっぽけな質を目の前にちらつかせたらいとも簡単に膝を折ったこの男の、それでも瞳の奥に揺らめく逆心を摘み取ってやる、そんな理由なのだろうと妲己は考えていた。
 でも、どうやらそれは違うらしい。
 日ごとに増す王の三成への執着は、妲己の胸の奥にちりちりと焼くような痛みを与えていたのだから。

 

 

 

 

 王の深海のように黒く、時に玉虫色にも見える髪はまるでたゆう波のように三成の身体を覆う。
 下から激しく突き上げられる度にそれは彼の痩躯に絡み付く。

 
「ひっ..はっ..ぁ」

 
 尋常ではない質量を持つ王を受入れている箇所は不自然に押し広げられ、成すがままに内臓をかき乱される。
 白い喉を目一杯に反らし、瞳をこれ以上無いというくらいに見開いて(それは戦場に転がる断末魔の表情によく似ていた)開け放したままだらだらと涎をこぼす口から引き絞るような悲鳴を漏らして。

 
「ぃっ..ひ....っこん..さ..こっ...んっ」

 
 意味を成さない掠れた咆哮に、時折混じる名前。
 元の世界でそれは彼の情人だったのだと、誰かが言っていた。
 彼の唇からその名が漏れる度、王の口元が歪んで蛇の牙が覗き見えるのを妲己は知っている。
 いっそのことあの牙で眼前の喉元を喰いちぎってやればいいのに。
 そしたら、楽になれるのに。

 

 
 楽になれる?

 
 誰が?
 王が?
 彼が?

 それとも、私が?

 

 

 

 

 王は今だ果てを迎える気配を見せない。
 三成の性器は数えきれない射精の果てに萎えてうなだれて、それでも彼は薄い肩を跳ね上げて達し続けていた。
 地獄を見下ろす快楽の淵で踊り続けるその様を美しいと妲己も思う。
 魔の眷属が美しい物を愛おしむ心は人よりずっと強くて深い。
 限界を超えた三成が気を飛ばしそうになる度に、王は彼の左の胸に通された小さな金の輪に爪をかけて引いた。
 それは初めて三成が王のものとなった時に王が与えた物で、彼は長い爪先で健気に立上がった乳首の先端に穴を穿ち、自らの耳を飾っていたそれを手ずから通した。
 先の割れた舌で苦痛に油汗をにじませる三成の頬を舐めながら、時間をかけてゆっくりと。

 
「こちらにも、」

 
 すべらかな腹筋をひくつかせて痙攣を繰り返す三成の耳に唇を寄せて王は囁く。

 
「いずれ同じ物をつけてやろうな。」

 
 反対側の、いまだ可憐なままの片方にも爪を立てて嗤う声をどれほど三成は理解しているだろう。

 
「ここにも、だ。」

 
 王の手が無遠慮に、露に滑る性器の先端をむき出しにする。

 
「ひっ」

 
 敏感になりすぎて濃い紅に染まる部分に鋭利な刺激を加えられて、三成の瞳に恐怖の色がありありと浮かぶ。

 
「やっ..嫌っ..やめて....いたっ..痛い..ぁぐっ」

 
 苦痛を訴えて泣き叫び、どうにか逃れようと身をよじらせる三成を屈強な腕で押さえつけて王は嬲り続けた。
 凶器に狭い尿道口をこじ開けられて、中の自分でさえも触れたことの無い粘膜を掻かれる。
 三成が痛みをしか感じなくとも、王にとってそれは至上の愛撫なのだ。
 自分には見せた事の無い、おそらくは誰にも見せた事の無い満ち足りた王の顔を見て、妲己もまた心に暖かい物が流れ込むような、そして同時に胸をひきちぎられるような思いを味わっていた。

 

 

 

 

 嫉妬、とその感情に名付けるには彼女は未成熟で、許された時間も足りなかった。
 それが分かったとして、彼女に何ができただろう。

 
 あの夜、あの後。

 
 王の去った寝台に打ち捨てられた三成に妲己は顔を寄せてみた。
 意識を失って眠る彼は生命を持つ者のようには見えなかった。
 せっかくこれから世界が面白くなる、という時にこんなことで死なれては面白くない。
 薄く開かれた唇をそっと指で触れてみる。
 指先に微かな吐息が感じられ安堵する。
 なんとなく、離れ難くなってそのまま指を沿わせていると三成の長い睫毛が重たげに震えた。

 
「さこん..。」

 
 触れていた指に口づけ、離れるその時に柔らかな舌で形をなぞられた。
 彼の涙に塞がれた瞳ははるか遠く、生き別れた彼の恋人の姿を幻に描いてこの地獄のような現実に向けられてはいない。
 でなければあのように酷く苛まれた後で、こんな口づけが出来るはずが無い。
 人の心なんてものには興味の無い妲己だったけれど、それくらいのことは分かる。
 なのに、それなのに、その口づけのなんと心地良かったことか。
 王の腕の中であれほど乱れるくせに。
 どん欲で淫乱で、何より快楽にひどくもろいくせに。
 王はこの怜悧な美貌を持つ男が、これほどに暖かな情を隠し持っていることをきっと知らない。
 人間というものは本当にやっかいだ。
 結局、妲己にできたのは少し間困惑して首を傾げてみせることくらいだった。


 

 

   

  

 

  


 

不思議な三角関係
ああ、そうさ。好きさ、妲己ちゃん
あくまでさこみつ前提です