数ヶ月後、私は独りで子を産んだ。
あの人が望んだように、玉のような男の子だった。
冬の寒い、天気の良い日。私は赤子を抱いて外を見ている。
--佐吉。良い子ね、佐吉。
冷たい風に晒さぬように小さな小さな身体をしっかりと抱き締めて、この子の名を呼ぶ。
まだ言葉など解さないはずなのに、この子はあの人の遺した名を呼ぶとよく笑うのだ。
私はあの人に、たった一つ、嘘をついていたことがある。
本当は最初からあの人の正体を知っていた。
まだ色街にいた頃、その宴席に数回侍った事があると言う姐さん女郎が教えてくれたのだ。島左近というあの人は今は浪人の風体を装っているが、本当は昔、佐和山の石田三成に近しく仕えていたご家老様なのだと。
お父さまの側で、お父さまを支えた人。
きっと私よりずっと多くの事をお父さまと共有していた人。
私はそれが悔しくて、だから惹かれた。
あの人について行こうと決めた時、私は愚かにも運命を変えられると思った。
私があの人を過去から解き放ってみせる。そして私自身も。
そんな夢を確かに見たのだ。
でも、死者には敵わなかった。私も、彼も、誰も。
さようなら、私の愛しい人たち。
私を最後まで愛してはくださらなかった人。
私に運命を与え、そして奪った人。
弱虫。嘘つき。ずるい人。
でも、私の愛しい愛しい貴方。
貴方達はたくさんの人を殺して来たから、数えきれないほどの命を奪ってしまったから、地獄にも極楽にも行くことはできないでしょう。
でも、どこかで私たちを見ていてくださるのだとしたら、どうぞご覧ください。
私は今、とても幸福なのです。
この手に遺されたぬくもりを抱き締め、高く澄んだ天を仰いで呟いてみる。
--お父さま、これでご満足ですか。
その問いの、還るはずはないけれど。
終 劇
My Funny Valentine
to You.
私の可愛い人
可愛らしくって 可笑しな私の恋人
どうかそのままでいてね 私の可愛い人
どうかずっとずっと変わらないでいて
私には貴方のいる毎日が特別な日なの
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