盲いた彼の手となって、乱れた衣服を着せ直し、絡んだ髪に櫛を当て、高虎は自らが刻んだ情交の跡をひとつひとつ消していく。
身体を繋げている間にはあれほど激しく身を悶えさせ、あられもない言葉を吐いて求めたのが嘘のように、吉継の顔にはなんの表情も浮かんではいない。
白布の頭巾を巻いて紐を結い、さてこれで仕舞いと手を止めた高虎は、しかし何かが足り無いのに気がついた。
そうだ、彼の切れ長の眦に、いつもほんの一筋引かれた紅が無い。
どうやらそれはひっきりなしに零していた涙に解けて流れてしまったらしい。
ほんの僅かな色彩を失ったその顔の、なんと生気のないことだろう。
目の下にはうっすらと陰る隈。
薄く削り取られたように痩けた頬。
血の気の失せた土気色の肌は、もはや彼はこの世のもので無いようで。
ふいに手を止めたままの高虎に彼は眉を寄せ、怪訝な表情を作ってみせた。
「ああ、紅が。」
それで察した彼は袂から小さな貝の容器を探り当て、それを放ってよこす。
なんとも周到なことと少々うんざりしながらも、高虎はそこからひと掬い、紅を薬指の先に乗せて閉じられたままの目元に佩いてやった。
そうして、ついでとばかりに指先に余ったそれを、引き結ばれたままの唇にもっていく。
「やめろ、私は女ではない。」
指が柔らかな箇所に触れる感触に、行為を悟った吉継が顔を背けたせいで手元が滑り、唇を彩るはずだった紅は目標を大きく逸れて肌の上に筋を描いた。 唇の端から頬にかけてを汚したそれが真っ赤に吐かれた血に見えて、高虎はなおも逃げをうつ頭を整えたばかりの黒髪が乱れるのも構わずに手の中に押え込む。
「やめろ。」
「離せ。」
「いい加減にしろ。」
聞き分けのない犬に命じるのとたいして変わらぬぞんざいな言葉を吐く口に指をねじ入れ噛ませて封じ、冷たい頬に舌を這わせて紅を舐め取りながら、いつの日か、そう遠くない未来、この美しい首にこうして死化粧を施してやる自分を想い描いて高虎は身体の芯に再び籠り始めた熱をどうしようもなく知覚した。
大谷さんの目元の紅いあれは顔色の悪いのを誤摩化す為なんだよ!という妄想から
流石に唇にまでは紅は差しませんが、プールで冷えすぎちゃった人みたいに色になっているとか
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