頑に守ってきた物が目の前の男によって今、崩されようとしている。
 捧げたのは自分だ。後悔はしないと心に決めたはずが、肩を抱かれて震える自分は何も知らない生娘のようだと三成は思う。
 治部少の誇りも矜持もかなぐり捨てた自分を左近は女々しく、滑稽なものとして笑うだろうか。

 
「余計なことを考えなさるな。」
 

 いまだ身を固くしたままの三成に、泣く子供をなだめるような少し困ったような笑顔で左近は笑んでみせた。
 人にこのような温かな顔を向けられたのはどれくらいぶりだろう。もしかすると本当に子供の時以来かもしれない。
 

「そのお顔が好い。」

 
 大きな手で何度も頬を撫でながら、いつかとまったく逆のことを左近は言った。
 迷いも弱さも隠しきれぬその顔が、人形のように凍り付かせた面よりもいかに美しいか、歌うような口調で告げてやる。そうしてその顔が自分の言葉によってさらに赤く火照るのを楽しんでいる。
 

「俺は、ずっと..。」
 

 ずっと待っていたのだ。この男を。心に切り込む刃を。闇を切り裂く光を。
 

「左近もずっとお待ち申し上げておりました。
 殿がこうして、お心を開いてくださるのを。」
  

 唇にではなく、額に口づけされて三成は戸惑った。
 やがてその唇が閉じた瞼から頬を伝い、耳たぶを甘く噛んで、やっと口に触れて来た時には、待ちわびて自ら貪りついた。
 互いの舌が、どちらがどちらのものなのかわからなくなるほどにせわしなく絡み合う。 上あごの骨を覆う薄い粘膜や敏感な奥歯の歯茎までもを舌先でくすぐられ、三成は全身の細胞が快楽に向けて揺り起こされるのを感じた。
 

「あっ..ふぁ..っ!」
 

 軟体動物のように蠢く舌が口内から出て行った時、やっと与えられた空気に息をつく。 安堵感とともに襲う焦燥。
 はやく。はやく。はやく。
 この熱の、消えないうちに。
 おぼつかない手で自ら着物の肩を落とし、帯を解こうとする三成そっと押しとどめて左近が言う。
 

「そのように焦ってはなりません。」
 

 逞しい腕が背を抱き、壊れ物を扱うように褥に横たえる。

「左近はもう逃げませんよ。今宵は存分に左近を御召しください。」
 

 露になった肌に左近は再び口づけを落としていく。
 時に羽でかすめるように、時に食らいつくように。
 それでも肝心な部分に触れてこぬもどかしい愛撫に三成は喘いだ。
 

「さこ..さこんっ..そこをっ..。」
「ここ、ですか?」
 

 滑らかな胸に咲く赤い尖りを人差し指の先でくるりと撫でてやると、それだけで三成の身体はおもしろいくらい跳ね上がる。
 

「男の身でこのようなところで感じられるとは。」
 

 わざと耳元でくすくすと笑ってやると、それを蔑まれたと取ったのか誇り高い主人は羞恥に顔を歪め、泣き出しそうな表情を浮かべた。

「よろしいのですよ、殿。素直な殿が左近は見たいのです。」
 

 爪先でつねりあげては舌で癒す。
 

「ひゃっぁ..ひぃっ..ぁっ..あ。」
 

 触れられた部分から立ち上る炎のような刺激に身を焼かれ、三成は身をよじらせて嬌声をあげ続けた。
 その様が愛おしくてしつこいくらいに嬲れば三成はとうとう根を上げた。
 

「さこんっ..もぅ..。」
 

 意図するところを悟って視線を下腹部に移してみるとそこには既に立ち上がった性器が蜜をしたたらせて揺れていた。
 

「ああ、もう随分と濡れていらっしゃいますな。」
 

 先端をかすめると触れた指先が溢れる粘液でしとどに潤う。
 たったあれだけの刺激でここまでに昂るとは。
 元々の本性であるのか、慣らされて仕込まれたものであるのか。どちらにせよ、この様子では限界は近く、弾けるのも時間の問題だろう。
 

「ですが殿、先程も申し上げたはず。
 夜はまだ長い。
 今しばらく、殿にも耐えていただかねば。」
 

 左近は髪を結んでいた紐をとくと、手早くそれで三成の性器の根元をきつく戒めてしまった。
 

「やっ!さこんっ。」
「お可愛そうに、こんなに腫れて。」

 
 いたわるように言葉とは裏腹に、左近は舌を大きく突き出して張り詰めた幹をべろりと舐め上げる。
 

「いやだっ..やめろ左近っ!離せっ。」
 

 何が辛いといって、精を塞き止められるのが男として一番辛い。 
 そうされることは初めてではなかったが、何度されたからといって慣れるはずもない。 解放の寸前で留め置かれて狂ったように懇願する無様な自分の姿を、男達が楽しむのを三成は知っていた。
 

「離せ..離して..っ。」
 

 そんな姿を左近にだけは見せまいと、必死に叫ぶ三成に構わずに左近は残酷な口淫を続けた。
 熱い口内の粘膜に全体を包み込まれたかと思うと、先端から涙のように流れつづける先走りを唇を立てて吸われる。
 背骨を痺れさす快楽に三成の細腰は性交のときのそれのようにがくがくと揺れた。
 

「やぁっ...もぅ..い..やぁ。」
 

 うわずった声に左近はやっと顔をあげると三成を見た。
 

「殿...。」
 

 伏せられた長いまつげに雫が張り付いている。
 左近は慰めるようにしてそっと三成の唇に自分のそれを重ねる。
 

「ん..。」
 

 先程の貪るようなそれとは違い、ゆるやかな口づけで左近の唾液と自分の溢れさせたものが入り交じって注がれる。独特の風味のするそれに眉をしかめながらも、三成は左近を受け入れた。
 ゆっくりとついばむような接吻を繰り返しながら、左近の手は三成の腰のさらに奥へ侵攻を遂げる。
 

「殿、良いですか。」
「ん。」
 

 蠢く欲望を確かめられることが恥ずかしい。でも、欲しい。本当はすぐにでも欲しい。 こんな時だけはやっと得られたばかりの左近の優しさが疎ましくなる。
 三成自身の漏らした先走りにそこはもうぐしょぐしょに湿らされていて、左近が差し入れた一本目の指を難なく飲み込んだ。続いて加えられた二本目も。
 揃えられ、なじませるように入れられていた指がバラバラに動かされ始めた。
 狭い器官を押し広げるために、左近が準備を整えようとするたびにぐちゃぐちゃといやらしい水音が耳を塞いでも体内から響くようだ。
 

「ここはいかがです?」
 

 無骨な指が器用に動いて腹側のしこりを引っ掻いたとき三成の身体は大きく跳ね上がった。
 

「そこっ..だめっ..だめだ..ぁ.!」
「随分と悦いようですな。」
 

 三成の反応を確かめて、いかにも面白そうに肩頬を釣り上げると左近はさらに3本目の指を添えた。
 質量を増した指をまとめてぐりぐりとそこを擦り立てる。
 

「あぁ!だめっ..くるしっ..。」
 

 押し出されそうな快楽は今だ根元で戒められたまま。
 頭を振って涙を散らすことだけが三成に許された唯一の抵抗。
 

「殿。殿のお可愛らしいご様子に左近ももう限界です。」
 

 我が物顔で振る舞っていた指を抜かれたのはさらなる衝撃の前触れだ。
 

「どうぞ、力をぬいて..。」
 

 限界というのは決して誇張ではないのだろう。そう言う彼の声もいつの間にかかすれていた。
 両の足の膝裏に手をかけられ、古傷の残る厚い肩に抱え上げられる。
 高く腰が褥から浮き上がり、ほぐされていた場所を露にさらされて、空気の冷たさと期待にぶるりと身を震わす。
 左近の方を見上げようとすると、はちきれんばかりに怒張した自身が視界に入り、三成は思わず背けてしまう。
 ぐちり、と濡れた音がして自分の入り口に左近のものがふれているのを感じる。
 熱い。
 触れ合っただけでこれほどに。
 どれだけの熱をこの男は身に秘めているのだろう。
 そうしてそれを受入れたとき、自分はどうなってしまうのだろう。
 狂ってしまうかもしれない。それでも構わない。
 もうあの冷たい闇の中に戻らなくて良いのならば、いっそ業火の中で。
 

「殿、恥ずかしがらずにご覧になってください。殿が左近を受け入れてくださっているのですよ。」
 

 堅い肉が柔らかな粘膜を押し広げて侵攻を開始する。
 

「あぁ...。」
 

 左近に促されて乱れた髪の隙間からちらりと目にした彼のものはこれまでに出逢ったことが無いほど逞しく、そんな物がずぶずぶと自分の中に消えていくるそれは想像していた以上に壮絶な光景だった。
 ことのほか時間をかけて入れられたせいで想像していたほどの衝撃は無い。
 けれど、やはりこの熱さは。
 浮き出た血管が脈打つのまでが内壁に伝わってくる。左近の生命の灼熱が。
 

「動きます。」
 

 すっかり奥まで収めてしまうと、短く告げて左近はぐるりと腰を回した。
 内臓をかき混ぜられ、さらに押し広げられる感覚に目がくらむ。
 

「ぐぅ..ん..ぁ。」
 

 それで大分緩んだのを確認した左近の動きは徐々に激しさを増していく。
 小刻みに抜き差しを繰り返され、それにも慣れてくるとさらに大きく。
 天井から突き入れられる姿勢のせいで胃の腑までも叩きのめされるような感覚に三成は呻くことしかできない。
 

「はぁっ..ぁ..あぁっ!」
 

 悦い、と伝えようとした言葉は潰れた悲鳴になって口から漏れていく。
 左近は腰を浅く引くと、先程指でもって見つけた最も感じる箇所を先端で嬲った。
 指とは比ぶるべくもない質量にぐいぐいと押しつぶされ三成は泣いた。
 

「もぅ..もぅ許して..さこん..さこん。ゆるしてぇ..。」
 

 赤子のように頬を滂沱の涙で濡らしながら懇願する様のなんと可憐なことか。深窓の姫君とて初夜の床でこのような顔は見せられまい。
 ごくり、と喉をならすと左近はその願いを叶えてやるべく性器を戒めたままだった紐を解いてやった。
 急激に訪れた解放に三成が半ば叫ぶようにして訴える。
 

「いやっ..もう..逝くっ。逝ってしま..うっ!」
 

 正常な意識などとうに失っているのだろう。自らも腰を揺さぶって一途に快楽を追う三成は左近が本当に見たいと願っていた仮面を脱ぎ捨てた人間の姿そのものだった。
 

「左近も、もう限界のようです。
 俺をここまで追いつめるとはさすが我が殿だ。」
 

 強気に笑っては見せるものの、三成が息を吐く度加えられる強烈な締め付けに左近も既に限界を間近に感じていた。
 

「いっしょ..に。左近っ。」
「ええ、共に。果てを。」
 

 抜け落ちる寸前まで引き抜き、その直後に加えられた一撃のもとで三成の身体は二人分の欲望に塗れたのだった。

 

 

 

 

 気を失ったようにぴくりとも動かない身体を濡らした手ぬぐいで清めてやる。
 本当は風呂にでも入れたほうが良いのだろうが、これではその体力も残っていまい。湯船に沈むのがおちだ。
 

「さこん..」
「何です?」
 

 自分の方へと力なく伸ばされた手を取り、左近はそっと口づけを落とす。
 

「どこへも..いくな。」
 

 それが今の三成に出来る精一杯の表現なのだろう。
 ずっと一人で生きて来たこの人の最大限の。
 なんて拙い。
 けれど、いじらしい。

 

暗闇に覆われたこの世界で

 

「左近はずっとお側におりますよ。」

 

貴方は私のひかりだから

 

「殿が嫌と言っても、お離しいたしません。」
 

 その言葉を聞いて安心したのか、三成の腕から力が抜ける
 
 

この手の中のひかりを見失わないように

 

 左近は身体を丸め、胎児のような姿勢で瞼を落とす主人を固く腕に包みこんだ。

  
  

  

   

   

    

    

    

   

    

  


  

なんだかいつものパターンで終了
「ひかり」は宇多田の「光」から
左近にとっても殿にとってもお互いがお互いの闇の中の光ということで
今年はこんなところです