この若き才人を終世の主人と定め仕えて幾年。
 忠義と信じた想いいつの間にか恋心にすり替わってきっかけは、左近本人にも分からない。
 気付いた時には激しい劣情が胸を占めて、自分一人ではどうすることも出来なくなっていた。
 もはや、年の違い、主従の絆、そして同じ性を持つ物同士でるあことなど顧みる余裕などどこにもない。

「どうした、左近。熱でもあるか。」

 ぼんやりと物思いに耽っているところへ当の本人からそんなふうに声をかけられ、軽く肩など触れられればそこから発した熱に身を焼かれそうになる。
 内密の話を耳元近くに口を寄せて語られれば、その温かな吐息ばかりが心をくすぐって肝心の内容等はこれっぽちも分からない。
 このままでは狂ってしまうと幾度思ったか知れない。
 いっそ狂ってしまえればどんなにか楽だろうとさえ願った。 
 目の前に咲く花は美しく、香しく、手を伸ばせばいとも簡単に手折ってしまえそうなのに家臣の身分の自分には触れることさえできないのだから。
 そんな苦しい胸の内など知るべくもなく、主人は日を重ねる毎に、年を追うごとに美しさを増していくように左近の目には見えた。
 女のような甘さがあるわけではない。
 さりとて男の堅さだけではない。
 そのどちらとも違う、いいやどちらも併せ持つ、清廉にして仕草の端々に漂う色香。
 凛として、けれど自分にだけ見せる甘えた顔。
 諸国を廻り歩き数多の女たちを見て来た左近が今までに出逢ったことの無い希有の美に、いっそ崇拝に近い気持ちを抱くに至って、左近はついに白旗を挙げたのだった。

「殿、お慕い申しておりました。」

 左近にとっては思い詰めた末の、三成にとっては唐突な告白に彼はその鳶色の目を瞬かせた。

「お前が家臣として俺を慕ってくれておることはよく分かっているつもりだが。」

「そうではない。そうではないのです。」

 こうなけば百戦錬磨の手練手管は微塵も無い。
 左近は必死に頭を振る。

「これは殿の思っていらっしゃるような、そのような清いものではない。
 左近は殿に恋慕の情を抱きました。家臣としてあってはならない不遜。」

 目を合わせることもできずに言を繋ぐ。

「殿のお心を煩わせた咎は負うつもりでおります。
 家老の職を返上させていただきます。
 殿がご命じになるならば腹を斬ります。
 この想いを罪と仰せになるならばお仕置きを賜りたく存じます。」

「落ち着け、左近。」

「けれど最期に左近めの想いをお伝えしたかった。
 願いが叶いもはや満足。」

 自ら感極まり涙さえ浮かべて身を縮める左近に、三成はしばらくは無言で畳に頭を擦り付けて震える男の肩を見つめていた。
 続く沈黙は左近の背筋を冷たく這う。
 言葉も無いほどに呆れられ、軽蔑されている、そう思った。
 無理もない。
 この主人の矜持が稚児のごとく扱われることを許すはずがないではないか。
 初めから、叶うはずのない想いと知っていたはずなのに、なんと愚かな事をした。

「お別れです...殿。」

 いたたまれなくなった左近が室を辞そうとしたその時。

「待て、左近。」 

 まっすぐに前を向いたまま、三成が静かに口を開いた。

「俺を慕っていると申したな、それは誠か。戯れではないか。」

「戯れでこのようなことを申せましょうや。
 誓ってこの左近、殿を、心より..!」

「...俺の何を分かってそのようなことを申すのだ。」

--俺の、何を。

 抜き身の刃のような瞳が左近を射る。
 常に側に在り、彼を見続けて来たはずの家臣に主人はそれ以上の何を知れというのか。
 まだ左近の知らない三成。
 それを知ることを許すという意味なのか。
 知れば受入れるということなのか。

「何を見ても、その想いは変わらぬか。」

 言葉の意味を逡巡する間もなく左近は首を縦に振った。
 試されているのかもしれない。
 けれど一縷の光が在るならばそれに縋る以外にない。

「今宵、俺の閨へ来い。」

 短く告げて三成は足音も立てずに左近の脇をすり抜けて部屋を出て行った。
 独り残された左近は呆然として天井を見つめる。
 主人の放った言葉が脳裏に蘇る。

--俺の、何を。

 果たして主人は、自分に何を見せようというのだろう。

 
 

  

--お前は本当に菩薩の化身では在るまいか。

 着物をはぎ取られ、四肢を押さえつけられた身に絡み付くのはしわがれた声。
 かさつく指。
 ざらつく舌。
 視線は羞恥に歪んでけれど健気に涙を耐える顔と、露に晒された脚の間を幾度も往復する。

--もっと良く見せてお呉れ。
 
 見ないで 見ないで お願いだから

 掴まれた足首を持ち上げられ下肢だけが浮く姿勢を取らされて、より大きく脚を割られる。
 燭台の灯を近づけられるとその熱がちりちりと皮膚を嬲った。

--幾度見ても奇異なことよ。ここが悦びを得る様を、じっくりと試してやろうの。
 
 人一倍隠したいと思うそこを舐め回すように見られ、無遠慮な手が蹂躙する。
 これから腹の奥まで掻き回わされて嬲り尽くされる。
 それはこの寺に引き取られてから毎夜のごとく課せられる、だからといって決して慣れることなど無い三成の務めだった。

 見ないで 見ないで 見ないで 

 一体どれほどの罪が在るというのだろう。
 父母に疎まれ、半ば捨てられるように追いやられ、縋る人も、帰りたいと願う家も無い。
 人として扱われることの無かったこの身体にどれほどの罪が。

 触れないで 放っておいて ひとりにして

 強く願ったはずなのに、この男が隠していた傷口を暴こうとしている。

 たった一つの蝋燭が白絹の夜着1枚を纏った三成を照らしていた。
 同じ真白の床の側に座して自分を待つ姿は初夜を迎える新妻のようで、左近はここまで来てなお主人の閨に足を踏み入れることを躊躇する。

「あまり遅いから逃げたかと思った。
 中へ入れ。夜気は冷える。」

 主人の薄い肩が細かく震えるのに気付いて左近はあわてて障子を閉めた。
 ぱたり、と軽い音がして空間は閉ざされた。
 常に侍る小姓の姿は気配もない。ここにはもう、二人だけ。
 あまりに完璧に用意された状況。それは夢に描くほどであったのにいざ現実の物として目の前に現れると左近にはどうしていいのか分からない。

「もそっと、近う。」

 身動きが取れずにいる左近に三成は口の端だけで微笑みかけた。

「殿、俺は。」

 膝を進めながらも何事かを言おうとした左近の唇を三成は自分のそれで塞いだ。

「お前は俺を好いていると、そう言ったな。」

 夢にまで焦がれた唇の柔らかさに陶然としながらも左近は頷く。

「これから見せるものはこの世のもの成らざる怪異の姿。
 それでもお前が俺を慕う心が変わらねば俺はお前に答えよう。
 けれど一瞬でも拒めば、それが俺とお前の今生の別れだ。」

 身を掏り寄せ肩に頭を持たせかけ吐く息は甘くその実は過酷に。

「ひどいことをおっしゃる。左近をお信じください。
 どうぞ、左近に貴方の全てをお与えくださいますよう。」 

 心から絞り出された言葉に、変わらずに形だけ笑んでいた主人の冷たい手が左近のそれを掴み袂の割れ目へと誘う。
 そこで触れた柔らかな形状に左近は思わず息を飲んだ。

「殿...っ、これは..」

 両の胸で淡く隆起する、それはまぎれもなく乳房であったのだ。

「少女のごとき有様であろう。女好きのお前には物足りぬだろうが。」

 偽物では在るまいかと混乱しつつも肉に指を押し付けてみれば、しっとりと吸い付くような肌が抗うことなく撓む。
 探るような指の動きに三成は、ん、と細い吐息を漏らした。

「吸うてくれ。」

 たまらなくなった三成が肩から衣を落とし、上半身が露になる。
 日頃はどれほど熱い強い日差しの下でも襟を崩すこともなく着物に隠された裸身は思い描いていたよりもずっと華奢で、それこそ未成熟な乙女のようだった。

「早く。」

 細い腕が左近の髪に絡み、胸を押し付けてくる。
 鼻先に当たった尖りに左近は夢中でむしゃぶりついた。

「歯を立てて、噛んでおくれ。」

 山に実る果実のように小さく、紅いそれを前歯の間に挟み、舌先で先端を舐る。
 与えられた甘い痛みとくすぐるような愛撫に三成の腹がびくびくと波打つ。

「あぁ...悦い..もっと、もっと、強く。」

 頭上から降り注ぐ、恍惚とした響きをもっと味わいたくて、左近は乳首への愛撫はそのままに掌に包み込んだ柔肉をもみしだいた。

「ひっゃ..あぁんっ..ぁ..。」

 いつしか三成の身体はしつらえられた褥の上に投げ出されている。
 赤みを帯びた髪が褥に広がり、甘噛みを強くすればばぱさばさと乾いた音を立てた。

「殿。」

 左近の手が乳房から汗の浮いた腹を滑り、かろうじて腰に残っていた帯に伸ばされる。

「暴くのか。」

「左近は殿の全てを受入れとう存じます。何卒...。」

 一瞬挑むような輝きを見せた後、三成の瞳は閉じられた。
 固く編まれた結び目を解きながら左近は思う。
 この先にあるものが何であろうと構わない。
 男であろうと、女であろうと。
 そのどちらでも無かろうと。

 
 たとえ、人でさえなかったとしても。

 

 

 

 


 

やってもたー。
一度はやっておきたい(そうか?)、みつなりふた○りネタ