Diaryで連載していたものを加筆修正しまとめ直したものです。

再臨発売決定前に書いていたので、それぞれのキャラクター設定に関してオリジナル要素が強いのですが物語の都合上そのまま残しました。
 公式の設定とは全く関係がありません。

ストーリー展開も再臨へ繋がっていません。

さこみつベースですが殿総受です。

 

 

 

 

 鉄鎖に縛されて引き出された三成は、じっと床を睨んだまま視線をあげようとしない。

「随分と生意気なことをしでかしてくれたわね、三成さん。」

 嘲るように声を投げかけると、眉を吊り上げてもなお崩れない美貌がやっと妲己を見た。
 目の縁が怒りと恥辱に紅く染まって、こんな顔まで美しい。
 妲己はほぅ、と密やかに感嘆のため息をつく。

「遠呂智様も貴方のことは買っていたのに。残念だわ。」  

 そんなふうに言ってはみたが、本当は三成が造反を企てているという情報は早くに知れていた。
 それを放っておいたのは、彼を掌中に飼う為の口実が欲しかったからだ。
 仮にも王の一軍を率いる彼を、いくら妲己といえど簡単に手は出せなかった。
 けれど罪人に落ちた今では存分に罰を与えることが出来る。

「殺せ。」

 短く、三成は吐き捨てた。

「金輪際、俺は生きている限り、お前達の思い通りにはならない。」 

「いいの?そんなことを言ってしまって。」

 存外に馬鹿な男だ。
 死など望んで許されるとでも思っているのかしら。
 いつもなら捕らえた獲物はすぐに引き裂いてしまう私が、これほど手間をかけて手に入れたものをそう簡単に手放してやるはずがないじゃないか。
 もの言わぬ躯だけが欲しいのなら、遠くの世界から連れて来たその時に壊してしまっていた。 
 そもそもこの手に入れようなんて思わなかっただろうし。
 妲己が欲しかったのは人の心を持ったままの人形。
 苦悶しながら自分の掌で思うがままに踊る傀儡。
 長いこと探していた、そんな素敵な玩具に彼はぴったりだ。

「貴方が死んでしまえば、貴方の会いたい人はどんなにか悲しむかしら。」

 細い肩がびくり、と揺れた。

--左近。

 がっくりとうなだれた口から漏れた名前は妲己の心をほんの少しささくれ立たせたけれど、これから彼を使って繰り広げる遊戯の数々を思うと彼女は自然と漏れ落ちる笑みを堪えることが出来なかった。

 

  

 

 

 

--左近。
 どこかで主人の呼ぶ声がした気がして、左近は一時、大刀を振るう手を止めた。
 見知らぬこの世界に飛ばされた時に分たれた半身。
 今はどこにどうしているのだろう。
 友軍にいるとは考えにくい。そうであればきっと知らせをくれるはずなのだから。
 突如として現れたこの混沌の世界を引き起こした魔王の軍に三成らしき男の姿を見たという噂も漏れ聞いている。

 苦しんではいないか。
 辛い目にはあっていないか。
 どこにいたっていい。生きて、無事でさえあれば。

 何時の日かあの麗しい笑みに出逢う為、左近は再び目の前の異形の兵に刃を振り下ろした。

  

 

 

 

 

「随分と機嫌がいいのだな」

 胸に頬を掏り寄せる妲己の、細密に編まれた髪を爪先で弄びながら王は言った。

「新しい玩具を手に入れたのよ。とても可愛い声で啼くの。」

 無邪気に破顔するその様はあどけない少女のようで、とても先程まで王の腹の上で淫らに腰をくねらせていたとは思い難い。

「そうだ、遠呂智様も一緒に遊びましょうよ。あの子もきっと喜ぶわ。」

 自分の思いつきに妲己の顔が輝く。
 こんな表情を見せる時にはいつも彼女の周りで血が流れる。
 例えば、孕み女の腹を引き裂いて取り出した赤子の血で唇を濡らすとき。
 命乞いをする兵の肢体をひとつひとつ潰してみせるとき。
 それが残酷と彼女は思っていない。
 そもそもそんな感情を持ち合わせてすらいない。
 ただひたすらに慈しんでいるのだ。人間という脆弱な生き物を。彼女だけの知るやり方で。
 そんな容赦のない純粋さは王が彼女を側に置く所以でもあった。

「お前がそれほど言うのなら、一度見てみよう。」

 ほんの暇つぶしのつもりであったにせよ、王の同意は妲己をひどく喜ばせた。

 

 

 

 長い回廊を踊るように歩く。

「ほら、早く早く!」

 手を引かれて、妲己の寝室を訪れた王はそこで立ち止まった。

「ね、美しいでしょう。
 最初は暴れて大変だったのだけれどね。これでも随分おとなしくなったのよ。」

 豪奢に設えられた寝台に転がる“玩具”は彼女の言う通りに奇麗で、彼女の好み通りに壊れていて、彼女の思い通りに踊っていた。

「ただいま、ミツナリ。さみしい思いをさせてごめんなさいね。
 今日は素敵なお客様が来てくださったのよ。
 さあ、貴方の好きなお遊戯を始めましょう。」

 

 

 

 

 

 この女を拾ったのは本当に気まぐれだったと王は思っている。
 何時の時代か、どこの土地か。
 そんなことは覚えていない。
 人間同士が無意味に殺し合い弱者が犠牲になる、そんな場所はいくらでもあったしそんな場所だらけと言っても良かった。
 その女は踏み荒らされた王宮の中で息を引き取る寸前だった。
 石造りの建物にも火が廻り、天蓋が紅に染まっている。
 身につけていたであろう豪奢な装飾品の数々をむしり取られ、絹の衣装も奪われて、わずかに残骸となって残る肌着の脚の間は彼女の身体をも略奪した男達の精液と引き裂かれた彼女自身の血で無惨に汚れていた。
 火炎の熱を孕み始めた床に髪を散らせ、ぽっかりと見開いたままのガラスの瞳。そこに異形の王の姿が映された時にも彼女は何の反応も返さなかった。

「生きたいか?」

 例えば、そんなことを問うた気がする。
 こんなになっても人はまだ生きたいと願うのか、そんなことを、戯れに。

--生きたい。

 紅の剥げた女の唇が微かに震えた。

「何故?」

--みんな、メチャクチャ ニ シテ ヤル。

「お前を辱めた者どもを、か?」

--チガウ。

「では、誰を?」

--セカイ ノ スベテ ヲ。

 女の貪欲さに王は満足して、自分の無限の命を分け与えることにした。
 この女ならば生に倦んだ自分を少しは楽しませてくれそうだと、期待しても良い気がしたから。
 

 

 

 

 

 

 後ろに男根を模した醜悪な性具を銜え込んで、三成の勃起した男根は女の素肌の足の下でどくどくと脈打っている。

「なんてはしたないのかしら。」

 くすくすと嘲笑まじりの言葉を吐きかけて、妲己はさらに足に力を込めた。

「ぐっ..ん。」

 うなだれたままの頭が横に振られる度に真裸の肌を覆う汗が珠と飛び散る。

「あなたの優しい恋人はこんな風にしてくれなかったでしょう。
 あなたは酷くされるのが好きなのにね。」

「ちがっ..ぅ。」

「嘘おっしゃいな。こんなに悦んでいるじゃない。」

 床には既に数度、精を吐き出した跡。

「自分でひり出しなさいよ。」

 冷たく与えられた命令に、三成ははっと顔を上げ、そしてすぐにまた伏せた。
 三成を床に縫い止めていた女の足が外される。

「ほら、早く。」

 躊躇しながらもおずおずと四つん這いになり、下腹に力を込める。
 排泄をする時に似た感覚に羞恥で死にそうになりながらも胎内深くまで埋め込まれた性具を抜こうと試みるが、女の腕ほども質量のあるそれは簡単に動いてはくれなかった。
 押し込められた時だって、妖魔どもに数人ががりで身体を押さえつけられ下肢を天井から釣られたうえに慣らされてもいないそこに無理矢理に突き刺されたのだ。
 入り口の粘膜までを巻き込んで押し進められる凶器にみっともなく泣き叫んで気を失ってから、王を連れて自分を嬲りに来た女に頬を蹴り飛ばされて起こされるまで、それはすっかり内壁の形に馴染んでびくりともしない。

「もっとしっかりしなさいな。
 それとも、それがそんなにお気に入りならそのままコイツらに突っ込ませるわよ。」

 女の後ろにはあの妖魔たちが控えている。
 どの顔も目の前の餌に舌なめずりをして、主人の命令を待っている。
 このうえで彼等を受入れでもしたら。
 背から滲む冷たい汗が肋を伝って床に落ちる。
 三成の身体がどうなろうと妲己は気にしてもいないだろう。
 彼女はただ、人の悲鳴が聞ければそれでいいのだから。
 健気に繰り返された蠕動のおかげで幾分玩具は動きやすくなっていた。
 さらに力をこめて吐き出そうと試み、ずるり、とそれが少しずつ落ちてくる度に腸壁がえぐられて三成は犬のように喘いだ。
 心を許した恋人に愛された身体が、今は快楽だけを拾い上げて三成を苦しめている。
 皮肉な事実に葛藤する姿さえも妲己は楽しんでいるのだ。

「ひゃっ..ぁ..!!」

 ごとり、と重い音がしてそれが抜け落ちると同時に張り詰めた前から幾度目かの白濁が飛び散った。

「あらあら。お行儀の悪い子。」

 体液とわずかな血液でぬめぬめと濡れ光る張形を邪魔そうに足先で蹴飛ばすと、妲己は力の入らない三成の腕を引いてまだ開き切ったままひくつく孔を王の前に晒した。

「遠呂智様に粗相をしたお仕置きをしていただくのよ。
 うれしいでしょう、ミツナリ。」

 快楽と、恥辱の果ての絶望と。
 何もかもに打ちのめされた彼女の“玩具”は嗚咽に形を細かく振るわせて自分の吐き出したもので汚れた床に伏したままだった。

「私のことがこわくなった?」

 一部始終を微動だにせず見つめていた王に寄り添って誘いながら妲己は微笑んだ。

--でもね、

「私をこんなふうに作ったのは、貴方でしょう?私の“ご主人様”。」

 冷たい手に誘われるまま彼女の“玩具”を引き起こし、あの時の期待は決して裏切られてはいないと蛇の王は思い知る。

 

 

 

 

 

 突き上げられたは素直に跳ね上がった。
 躾けられた身体はそれなりに快楽をもたらしたが、王は溺れきることができずにいる。

「ね、悦いでしょう?」

 ほんの少し力を加えれば砕けそうな細腰を鷲掴みにして揺さぶる側から、女が耳に唇を寄せて囁きかけてくる。

「こうすると、ほら、愛らしい声で啼くのよ。」

 女の爪が骨の浮き出した白い背の皮膚を破り、軌跡に紅い線を刻む。

「ぁあッ!」

 苦痛を訴える悲鳴と共に王を包み込んでいた内壁がぎゅっと締まる。

「なんて良い声。もっと聞かせて。」

 苦痛に反らされた頭の後ろ髪を掴んで固定し、妲己は蜘蛛の足のように開いた指をさらに突き立てた。
 傷の上に傷を重ね、長く伸ばされた爪が踊るのに合わせて、白い喉が謳う。
 女の嗤いさざめく声。
 王の深いため息。
 長い時間をかけて王が胎内に精を放ち終えたころには背を朱に染めた三成は腰だけを持ち上げられた姿でびくりとも身動きしなくなっていた。
  

 

 

 

 

 自分の寝台に眠る三成に顔を近づけて、そっと妲己はその整った鼻梁を指先で辿ってみる。
 血の気の失せた顔。
 力なく閉じられた瞼。
 うっすらと開かれた唇から漏れる吐息が無くばまるっきり死人のようなそれ。
 妲己が水鏡の中に初めて見いだした時も、彼はこんな顔をしていた。
 河原の高台に首だけで。
 この奇麗な生き物を思うがままに啼かせて遊んだらどんなにか楽しいことだろう。
 それを殺してしまうなんて、人間というのは全く馬鹿な生き物だ。
 玩具が恋人と呼び慕うあの男はその代表のように妲己には思える。

--あれは特別に愚かな人間だわ。

 妲己の見たところでは、男は主人の破滅を知っていたはずだった。
 彼が止めていればあるいは運命は変わったかもしれないのに、愛していると言いながらみすみす死なすなんて。
 命を失ってただの肉の塊になってしまえば、美しい声で啼かせることも、悦楽に踊らせることもできなくなるのに。
 妲己には時折人間達の見せるそういう行動が理解できない。
 放っておいてもわずかな寿命しか持たぬ彼らは自らの意思で死を選ぶことがある。
 例えば、国の為に。
 時に、自分以外の誰かの為に。

--本当に訳が分からない。

 三成がこうして妲己の言うなりになっているのだって、あの男のためだ。
 離ればなれになった恋人に会いたいという、たったそれだけの為に狗のごとき屈辱にも甘んじている。
 意識の無い今はおとなしくしていても目を覚ませばまた気の強い眼差しが彼女を睨みつけて、それを快楽で蕩かして苦痛で押さえつけて、そのくり返し。
 今までに遊んだ“玩具”たちがそうであったように、彼もまたいつかその地獄に耐えきれず壊れてしまうのだろうか。

--そのほうがましだ。

 首になって烏に啄まれるよりは、苦痛と快楽の間に狂って何もかも分からなくなる方がきっとずっと幸せなはずだもの。

--私の、手の中で。

 夢でもみているのか、三成の長く生えそろった睫毛が細かく震えている。
 色を失った唇が微かに動いた。

「...さ..こん。」

 呼気に混じって消え入りそうな、その名が妲己の胸を鷲掴む。
 たかが暇つぶしの慰み物であるはずのに。
 心が欲しいなんて思っていなかったはずなのに。
 だからあんなにめちゃくちゃにできたはずなのに。
 腹の底から苛立が沸き上がって喉がひりひりと焼け付く。

 目を覚ましたらもっと酷い事をしてやりましょう。
 鳴き声も枯れるくらいに踏みにじってやりましょう。

 そうしたら、この胸を掻き乱す想いの正体が分かるかもしれない。