長い袖と肩からかけた布の乱れて広がる様は蜘蛛の巣に捕われてもがく蝶を思わせた。
手足を戒めて地面に這いつくばらせたせいでそれは随分とひどい成りをしていた。
奇麗な顔は泥だらけ。
着物は砂埃と返り血でどろどろ。
頭に巻いた布が解けてぞろりと流れ出た長い黒髪が羽ばたくような音を立てる。
自分が何処に連れて来られたのかもわからずに、見えない目であたりをきょろきょろと見回し、声をあげ、それでもなんの返答も得られないのに苛立ち、時折親友の名を呼んでみるのがなんとも哀れでこのままいつまでも眺めていたい。
声までも奪ってしまうのはいかにも惜しく、自害という可能性があってもこうしておいたのは良い選択だった。
たとえ舌を噛んだところで すぐに吐き出させれば大事には至るまいし、それで言葉を失う事になったとしてもそれの美しさはなんら損なわれることはないのだから。
やっと。やっと、手に入れた。
問いかけが罵りに、そうして仕舞いに呪詛の言葉に変わる頃にはこちらはもう全身にこみ上げる歓喜に今にも気を失いそうになるのを耐えるのに必死で、目眩さえしていた。
声を立てぬように噛み締めた拳の皮膚は破れて溢れ出た血が顎に落ちたが、それにも気付かずに。 やがて、それは疲れ果てたのか、あたりの様子をうかがおうしていのか、声を上げるのを止めてしまった。
静寂の中から何事かを拾おうと必死に澄ます耳元に口元を寄せて、ふいに囁いてやったらさぞおもしろかろう。
お前の大切な兵たちは死んでしまったよ。
お前が守ろうとしたお友達は逃げてしまったよ。
お前を置き去りにして、みんなみんないなくなってしまったよ。
ここにはもう、お前しかいない。
お前ひとりだけ。
私が触れればお前は汚れてしまうから、私はただ、お前を篭の中に閉じ込めておこう。
出口を求めて羽を格子に打ち付けるのをじっと眺めていよう。
再び空に羽ばたく事がないように、これには纏足が必要だ。
遠く遠く、手の届かないところにいってしまうことのないように。
続きそうで続かない
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