※びずろぐ3月号書き下ろしの、『おにぼんたんに怯えてはつのいる方向に飛び退く梅大福』が元ネタでした。 いつか設定資料集みたいなものにまとめて出してくれる事を切に願います。お願いコーエーさん。
※だいふくの一人称。
※あいつはおっさんだと思ってる。
猫に怯えたフリをして、私は乳の合間に向けて飛んだ。
私を迎え入れるべき豊満な肉の隆起はすぐそこまで迫っている---。
私の飼い主はとても気だての良い娘であるがいかんせん肉感に欠ける。
そのことについては彼女自身自覚があるらしく、あのおめでた前髪の馬鹿に無神経にもそれを指摘されたときなどは夜毎真っ平らな自らの胸に手を当てては思い悩んでいた。
こんな時ほど、私は自らが鼠であることを口惜しく思うことは無い。
どうにかして慰めてやりたいと思うものの、人の言葉を持たぬ私にできるのはこの哀れな小娘に身体を擦り寄せて甘えてみせることくらいである。
自分で言うのもあれだが、一見可愛らしく見える私も人間の年齢に換算すれば今年で42歳、厄年である。
軽快な動作は息が切れる。
傘を持つ手が四十肩だ。
獣臭さにまぎれて加齢臭が気になる。
何処に出しても恥ずかしくない立派なメタボだ。
それでも肩に乗り、尻尾を振って愛嬌を振りまき続けていたら、ついつい足がもつれ懐に滑り込んだ(決してわざとではない)私をこの娘は、
「くすぐったいよ、梅大福v」
...などと、くすくす笑いながら撫でてくれるのである。
なんと優しく、無邪気な事であろうか。
そんな彼女には不幸な事にそういった思春期特有の悩みを打ち明けるべき同じ年頃の友人がいなかった。
散々に逡巡した挙げ句、彼女が消去法をもって相談相手に選択したのは馬鹿の友人であった。
顔を真っ赤にして、あくまで友達の悩みを代わりに聞いているんだけど、と幾度も念を押した末に、『胸を大きくする方法』を尋ねる彼女に対し、この男ときたらなんとも興味無さそうに塩昆布を噛みながら投げやりに応じていた。
「あと2、3年も経てばそれなりになるんじゃないか?」
まぁ、2、3年後のことなんぞ私は知った事じゃないがな。はっはっは、って、笑うに笑えない。可哀想に私の主人は口元を引きつらせて固まっている。
とはいえ私とて2、3年も待ってはいられないのだ。
ハツカネズミの寿命は長くて1年半。
これでは私が彼女の乳に埋もれて眠る日は永遠に巡っては来ないでないか。
オスとして産まれたからには、一度は豊かな乳に思う存分顔を埋めたい。
主人には申し訳ないと思いつつも、私は、その時を待ち詫びていたのである---。
そして、ついに、その時歴史は動いた。
猫に怯えたフリをして、私は乳の合間に向けて飛んだ。
豊満な肉の隆起は私を受入れ、そして想像以上の弾力で私の身体を包込む。
白くてふわふわお菓子みたいな質感はまさに至福。
男どもの羨望の眼差し、しかしそれはすぐに驚愕に変わった。
ただならぬ空気に見上げると至近距離から私を見る女の、凍てつく視線。
彼女の手に握られたくないは眼前に迫っている。
ああ、それでも、とおっぱいに埋もれて私は思う。
私の人生に悔いは無い。
うめだいふくがだいすきです
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