懐中に抱いた猫の重みがどんどん増していく。

確かに餌は随分とやっている。

認め難い事では在るが、自分の体力も衰え腕の力が落ちてきているのかもしれない。

しかし、猫の体つきは以前と変わりなく、それでいてこの鉛を抱くような重さはなんだろう。

 

鬼ぼんたんよ、ちと腕が痺れた。しばし降りてはくれぬか。

 

話しかけると猫は、糸のように細めた目で嗤い、人の声でこう言った。

 


然様、我の身体は重かろう。
なれども人の命はもっと重い。
お前の為に死んだ者達の命は是よりもっと。

 

恐ろしくなって放り出そうとした腕は、何故か張り付いたようになって離れない。

肩が抜けそうになり、たまらず膝を折る。

そのまま崩れるように地に倒れ込み、頬を地面に触れさせる。

腹の下敷きになった猫がごろごろと咽をならす。

それはまるで地の下から己を呼ぶ死者の声のように鼓膜を震わせた。




  

  

 
   

     


義久翁のえぴふらから
鬼ぼんたんが重いとのことなので