『朝 に 眠る』
まどろみの、温い沼の中から浮かび上がるような感じ。
頭だけは覚醒していて、それでも瞼を明けるのがおっくうで、それもこれもみんな俺の身体を包み込んでいる腕の持ち主のせいだ。
目覚めの時を気にしなくて良いと知れた夜の情交が激しくなるのは必然で、明け方近くまでこの腕は俺を啼かせ続けた。
ひとつ布団の中に身を寄せ合う俺たちは冬に眠る獣のよう。
世界に満ちるあらゆる恐怖、悲しみ、そして孤独。
そんなものから逃れるように固く閉じこもって。
--さこん。
名を呼んで、目を閉じたまま舌先を伸ばすと堅い感触。
はっきりと隆起した彼の鼻梁。
その下の存外に柔らかいのは、唇。うっすらと開かれて細く呼気を吐くそれは少し荒れていて、俺は湿らせた舌でそれをなぜてやった。
--ん。
いけない。起きてしまう。このつかの間の世界が破られる。
もっとこの男を慈しんでやりたかった。
舐め回して、歯を立てて、噛みしだいて、ぐちゃぐちゃに咀嚼して、それでも足り無いくらい。
そんな衝動を抑えて俺は再び意識を濁す。
もう少し、もう少しだけ。
儚く願いながら、俺は左近の首に回した腕をぎゅっと引き寄せた。
猫に舐められる夢を見て、それが主人の舌だと分かっても、俺は目を開けなかった。
--ん。
けれどちろちろと温い感触が顔を這うのがくすぐったくて、思わず喉が鳴ってしまう。
驚いたように引っ込む舌先。代わりに頭をかき抱く腕に力が込められて、それもしばらくするとだらりと崩れる。
ああ、また眠ったのだな。昨日は少し無理をさせすぎた。
--だめだ、もう、無理。もう、許して。
頼りない灯火の中でも分かるくらいに真っ赤に火照った頬を、涙で濡らしながら哀願する様に余計に煽られて、獣のように貪った。
俺たちが本当の獣ならば、相手の毛皮に鼻先を埋めて、皮膚に爪を突き立てて、生きた肉まで味わい尽くしただろう。互いが骨に成るまでしゃぶり尽くすだろう。
そんな衝動は夜の終わりと共に形を潜め、今はただ温いまどろみの中、包み込んだ体温を慈しむ。
細い腰を抱いた腕に力を込めて引き寄せると二人の身体はぴたりと重なった。
薄暗い布団の中。二人だけのつかの間の世界。
何人たりとも立ち入ることの出来ない、閉ざされた時間。
もう少し、もう少しだけ。
やがて必ず来る目覚めの時から逃れようと俺は二度寝を決め込む。腕の中のぬくもりを抱き締めながら。
殿と左近、ふたりそれぞれの目線で
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