「...というわけで」

 
 掲げられた先にはワイングラス、ではなくてカフェ・ド関ヶ原オリジナル大谷スペシャル“今日のコーヒー”。

「今年も盛大に、“石田三成にすっぽかされた者たちが島左近を呪う会”を開催したいと思う。
 乾杯の音頭はこの不肖・関ヶ原の白い妖精大谷さんがとらせていただきます。
 乾杯!!」

「...かんぱい..。」

 かちり、と力なく重ねられたふたつきりのカップがやけに寒々しい。
 このカフェにお客がいないのはいつものことながら、それが今日はやけに身にしみるクリスマス。

「なんだ小娘、元気がないじゃないか。らしくもない。
 “大谷さんとふたりっきりで過ごすクリスマスv”なんてお前、ありがたすぎて涙がちょちょぎれらぁな。」

「三成様がダメなら!せめて!あっちの大谷さんがよかったのぉぉぉぉぉ!!!」

 すっかり飲み干したカップをカウンターに叩き付け少女が叫ぶ。

「こっちの大谷さんはそっちの人ですが、大谷さんにあっちもこっちもありません。
 それによくご覧、小娘。
 こっちの大谷さんも実は美形なのだよ。
 青い鳥はいつもすぐ近くにいるものです。」

「いくら美形だって変態じゃない!!
 何が悲しくてこのあたしが恋人たちのための大イベントを真冬でもパンツ履かない男と一緒に過ごさなきゃなんないのよぅ!?
 三成さまが来るって言うからわざわざこんな日にシフト入れたのにぃぃ!!
 なんでこんなっ!負け犬が傷を舐め合うような真似にお付き合いしちゃってんの!?」

「負け犬ってお前...いきなりそんな核心を突く発言をアラフォーの大谷さんの前でするんじゃない。
 ていうか、初芽さん、もしかして酔ってます?」

 いつも以上の勢いで雄叫びをあげる彼女の頬は確かに赤く染まっている。
 今日のブレンドに生クリームと砂糖、そしてウィスキーを控えめに垂らし入れたアイリッシュコーヒー。
 寒い中をわざわざカフェへと足を運んでくれたお客を心身共に温めようと考案されたそれは、結局誰の心身も温めること無くこうして乾杯に使われたわけであるが、確実にこの少女をヒートアップさせる燃料にはなり得たようで。

「..マスターなんて..ち★この先から霜焼けになるがいい..わ...。」

 実に物騒な呪いの言葉を吐き捨てて彼女の意識は霧散した。
 すぅすぅと寝息を立てるその姿はどこかの誰かに似ていなくもない。
 無防備で無垢で、語る言葉を持たない彼女は実にあどけなかった。
 とはいえ、その中身を知るだけに一夜を共にする、などどいうことは何があっても避けたい事態。そんなことになった日にはこの小娘のこと、どんなにヒステリックに騒ぎ立てるか考えただけで絹を引き裂くようなきぃきぃ声に脳天をカチ割られそうだ。

「起きろ小娘。ここで寝るな。頼むから帰ってくれ。」

 揺すっても小突いても、彼女は夢の中から過酷な現実のもとへと出てくる気は無いらしい。
 そこでは素敵なクリスマスが繰り広げられているのは、口の端に浮かんだ天使のような笑みから伺い知れよう。

「仕方ない...緊急時だからな。」

 仕事中でもカウンター下に仕舞われている彼女の携帯電話を取り出す。
 ずっしりと重いストラップの束を掻き分けて、これまた原型を留めないまでにデコラティブに飾り付けられた本体を探り当て履歴を探る。
 誰でもいい。とにかく一番通信回数の多い人物を呼びつけてご回収願おう。
 いきなり男の声で電話をしては流石に不審なので、ここは小娘を装ってメールでお願いだ。

 

 うぇ〜んバイトしてたら
 ねむくなっちゃったv
 おねがいむかえにきて
 ヨロシク(*・∀・)从(・∀・*)
 ЙЁ♪ は・つ・め☆彡

 


 これでよし、と。
 この際どこのバカでもいい。今すぐに小娘をお持ち帰りしてくれ。
 正体を失った美少女を何処の誰とも分からぬ男に引き渡す...聖なる夜に思えばなんと鬼畜な所行であろうか。
 しかしここはカフェ・ド・関ヶ原。
 いかなる背徳的行為も店長たる彼の倫理コードに触れさえしなければ罪に問われる事は、ない。
 返事はすぐに来た。送信と受信の間が1秒に満たない即レスであったが、この小娘にそれほどぞっこんな物好きがいるのかと少々引きつつも彼はさして気にも止めずにいたのだった。

 

 

 

 この3分後、大谷刑部吉継(アラフォー)は遠い地の果てから自家用ヘリを駆って娘を迎えに来た190cmの大男と運命的な邂逅を果たす事となるが、それはまた来年のお話。

 

 

 

 

Merry Christmas and a Happy New Year!


 

 

 

 

 

 

なんとなくフラグを立てて終了