左近に泣き言を吐く軟弱みったん。

 

  

 

 三条河原で秀次様のご一族の処刑があった。

 
 俺は処刑奉行を仰せつかってな、その一部始終に立ち会った訳だが、ああいうのを地獄絵図というのだろうな。

 
 女子供ばかり40人ほどが河原に引き出されて、次々に首を落とされて行くんだが、母親の手から逃れた幼子を引きずり戻して、

それがまたむずがるものだから先に母親の目の前で首を落とした。

 母親は当然、狂ったように泣き叫んだよ。その叫びも、まあ、すぐに止んだがな。

 
 その中に、大方妾の連れ子か何かだろうが、12、3ばかりのまだあどけない少女がいてな、

いよいよ自分の番だと言う時に俺の方をまっすぐに睨み見てこう言ったんだ。

 
“この人でなし。”

 
 ああ、そうだ。俺は人でなしになってしまったんだ。

 人でないから、こんなことが平気でできるんだ。

 
 きっと、その時俺は笑っていたのだろうな。刑吏がおかしな顔をしてこちらを向いていたもの。

 
 俺はきっと、これからもっと、数えきれないほどたくさんの人を殺す。

 
 我が身はいつか人の心を失って鬼になる。

 
 怖いよ。自分が人でなくなって行くのが怖い。

 
 俺は俺の正義のため、鬼になるんだ。

 
 俺が俺でなくなっても、人でなくなっても、鬼の左近だけはそばにいてくれな。

  

   

 

  

  

   

 

  


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