目が覚めてみると、クィーンサイズのベットの隣には確かに昨夜抱いて眠ったはずのぬくもりはなかった。
 まだ半分寝ぼけた頭で辺りを見回すと、朝のニュースの流れるテレビと、カウチに沈んでぴょこぴょこ揺れる亜麻色の髪の毛。どうやら恋人は一足先に寝床を抜け出していたらしい。
 

「朝からそんなもん食べているとお腹壊しますよ。」
 

 後ろから近づいておはようの口づけをこめかみに贈る。
 三成が口にしているのは昨晩、呑んだ帰りがけにコンビニで買って来たアイスクリーム。
 ウォールナッツ風味のそれを酔い覚ましのデザートにしようと思っていたのだが、部屋に入った途端濃厚なキスを仕掛けられそのままなし崩しに二人はベットへ。
 哀れ置き去りのウォールナッツはしっかり者の左近によってかろうじて冷凍庫に放り込まれ、そこで夜を明かしたのであった。
 

 「俺は子供じゃないぞ。」
 多少不機嫌な声を背後に聞きながら、左近は冷蔵庫からビールを取り出して来て三成の隣に座った。

「お前、朝からそれ。」

 緑のガラス瓶に口をつけてから左近は笑って言った。

「いいんです。ビールは飲むパンですから。」

 そんな理屈が通るのは左近とドイツ人くらいなものだ、と怪訝に形の良い眉を寄せてみせるのはこの美しい人のくせだから左近はさほど気にしない。

「殿。」

 形ばかり、損ねた機嫌をとるように軽く顎を持ち上げて唇を重ねる。
 ついばむように触れるだけだったそれは、次第に深いものに変わっていき、いつの間にか二人はお互いの口内を舌でまさぐり合っていた。
 柔らかな粘膜同士がふれあう度に、香ばしいナッツの風味とビールの泡が混じり合う。

「..っはぁ。」

 息苦しさに先に根を上げたのは三成の方だった。

「...まずい。」

 また、眉をひそめて三成が言う。言葉ほどこの行為を不快に思っていないことは笑んだ唇でわかる。
 テレビではアナウンサーが今日の天気を告げている。
 

--今日は最高気温25度。湿度49%。晴れてお洗濯日和になるでしょう。
 

 ひとさじ、ウォールナッツを口に含んで今度は三成の方から口づけた。
 一瞬冷たさが舌に触れた気がしたが、それはすぐに二人の体温に融けた。深みのある甘さを三成の小さな舌が器用に動いて左近の口内に押し広げて行く。

「 んっ..ふぅ。」

 すっかり味が消えてしまう頃、やっと二人は離れる。

「どうだ、美味かっただろう。」
「ええ、とても。」

 自慢げに言う三成の口の端についたクリームを舌先で拭ってやりながら、左近は窓の外に目をやった。
 なるほど、今日は天気がいい。
 散歩がてら買物にでかけよう。
 その後は遅めのブランチで腹ごしらえだ。
 材料を買って来て二人でゆっくりていねいに作るのも楽しいかもしれない。
 始まったばかりの恋人との休日を思って、左近はまたひとくちビールを口に含んだ。

 

 

 

 


初代のWeb拍手用SSでした。
みったんが食べているのはハーゲン○ッツのウォールナッツ。大好きです。