妙に腹が重くて、触ってみたらそこには膨れて温かな感触。
 自分とは違う、もうひとつの呼吸。
 これって、これってもしかして。
 でも俺、男、だよなぁ。
 あれだけ毎日してたらそんなこともあるのかな。
 確かに思い当たる節はある。
 そのままの殿を味わいたい、なんて言われると恥ずかしいけどなんだかうれしくなっちゃって、それにシテいるの時は俺の方がすぐにわけがわからなくなっちゃうから最近はゴムもなあなあで、左近は左近でその方が簡単で気持ちいいのか中に出してばっかりいた。
 後始末するのは面倒なんだけどそれは左近がしてくれるから、俺も左近が喜ぶならそれでいいかって止めてくれって言わなかったし。

『“デキちゃった”はお互いの共同責任。
 一方的に男性側の責任を問い詰めては問題がこじれるだけです。
 お互いの将来設計を考えてよく話し合い、冷静な判断をしましょう。』

 カフェにあった女性誌にはそんなふうに書いてあった気がする。
 俺たちに将来設計なんてあるのかな。
 例えば俺の生活とか、左近の老後とか?
 ...まあいいや。
 左近は子供好きだし。きっと喜んでくれるだろう。
 左近に似た男の子。俺に似た女の子、でもいいな。
 できれば両方。双子がいい。
 これってすごく素敵なプレゼントじゃないか。
 だって、今日は、左近の。
 うれしくなって下腹をなで回してみる。
 あれ、でもなんでこんなにでこぼこしてるんだろう。
 それにちょっと固くて...もじゃもじゃ?
 そこで、はっ、と目が覚めて視線を落としてみたら、裸の下半身のうえにネクタイを緩めただけでワイシャツを着たままの左近の頭がのっかっていた。
 道理で重くてあったかくてもじゃもじゃな訳だ。

 

 
 昨日の夜。
 仕事で遅い左近を俺は先にベットで待っていようと布団に潜ったらそのまま眠ってしまったんだっけ。
 日付が変わった頃、左近が帰って来て起こされた。布団をひっぺがされてパジャマ代わりのTシャツをたくし上げられて、パンツをおろされた、あたりまでは記憶があるんだ。
 この状況からみるにおそらくそのあたりで双方力つきたんだろう。
 それにしても器用な奴だ。腰にしっかりしがみついてタックルをかけるような姿勢のまま寝入ってしまうなんて。...それほど疲れてたのかな。
 うっすら開いた口からすうすうと寝息をたてる顔はびっくりするほどあどけなくて、ちょっと突いたくらいじゃ起きそうも無い。
 ああ、でも早くここから抜け出さなきゃ。
 せっかくの日なんだもの。今日くらいは俺が自ら腕を振るった愛情たっぷり朝ごはんでおはよう、ってしてあげたいのに。
 それに、この格好じゃ俺のアレはちょうど左近の喉元あたり。
 しかも自分では見えないけれどちょっと、勃ってる、気がする。
 俺だって健康な若い男子、なんだから朝の生理現象ってやつはあって当然なんだ。
 昨日、中途半端なままで寝てしまったせいもあるし、決して朝っぱらかい嫌らしい気分になっているわけじゃないぞ。
 こんなのが左近にバレたらきっとまた笑われる。
 膝のあたりでわだかまっているパンツのせいで脚は動かせないし、俺はどうにか自由になる上半身を駆使してこの拘束から逃れようと試みた。
 左近を起こさないように慎重に、しかし強引に。
 背中に回された手を指一本ずつ丁寧に引きはがして、やっと腕をふりほどくことに成功する。
 あとは左近の身体の下から俺のすっぱだかの下半身を引きずり出すだけ。これはさらに注意深くことをすすめなければならない。
 そろそろと身体の位置をずらしていって、ちょうど左近の顔面が絶妙な位置、股間の真上に来た時。

 じょり。

 敏感な薄い皮膚に感じる刺激に俺は叫び声をあげそうになった。

 じょりじょりじょり。

 必死で口を押さえる俺に襲いかかるさらなる加虐、なんていうと大袈裟だけど。
 剃っていないひげと、整える前のもみあげをそこだけに集中的に擦り付けてくる、あまりに的確な動きにあわてて頭を押しのけようとすると、にやり、と笑う左近と目が合った。

 なんだお前、起きてたのか!

 そうですよ。あんなにじたばたされたら、目が覚めない方が不思議です。

 バカ左近!朝っぱらからこれじゃいつもと同じだ!!

 おはようのあいさつも忘れて、せっかく朝飯をつくってやろうと思ったのに!と怒ったら妙に慌てた様子で、それより左近はいまここで殿をいただきたく思いますなんて言われた。
 お前、いっつもそう言ってごまかしてないか。

 今日くらいは俺に甘えろ!
 左近の一人や二人、きっちり面倒見てやる!!
 家事も仕事も一切するな、赤ん坊みたいにごろごろしてろ!

 俺の苛立ちをよそに左近は肩頬を釣り上げながらこんなことをのたまった。

 赤ちゃんプレイとは流石は左近の見込んだ殿。
 わかりました。その策、左近が実現してみせましょう。

 って、わぁ、俺の乳首をいくら吸ったって母乳なんて出ないぞ!

 それではこちらから殿のミルクをいただきましょうかね。

 せっかく収まりかけていたのをじょりじょりされて元気になってしまったそれをさらにちゅう、っと強く吸われればあとはもうなし崩し。

 

 
 結局ベッドで身動き取れなくなっているのは俺の方で、左近はキッチンで鼻歌なんか歌いながらブランチを作っている。
 なんだか悔しいから起こしにくるまで寝たふりをしてやろう。

 とーの、まだふてくされているんですか。
 そろそろ起きてご飯にしましょう。
 天気もいいですし、今日はお出かけしましょうか。
 夏物のパジャマを買って差し上げます。そんな格好で寝てたら風邪ひきますからね。
 途中に美味しいパフェのお店もありますよ。

 ...パフェ。
 それにキッチンから漂ってくるベーコンの焼ける音。オランデーズソースを温めるたまらない匂い。エッグベネディクトだ。
 お腹、すいたな。
 仕方ない、起きてやるか。
 俺は心の広い男なんだ。特別に許してやろう。だって、今日は、左近の。

 ハッピー・バースデー、左近。

 鼻先まで顔を寄せていた左近にしがみついて、とびっきり甘えた声を耳元に吹き込んでやると、左近はびっくりした顔をしていたけど、ゆっくりと目尻を下げて俺の頭を撫でてくれた。
 性的な匂いのしないその仕草は気持ち良くてすごく安心する。まるで子供を可愛がるお父さんみたい。
 友達で、恋人で、もしかしたら俺たち家族にだってなれる日が来るのかな。
 できるのなら俺たちの“将来”をこの目で見たい。お前の隣で、一緒に。

 左近。

 左近。

 俺の大好きな左近。

 産まれて来てくれてありがとう。

 

 

 

Warm Wishes For A Wonderful Birthday.