引き据えた青年は存外に小柄な体躯の持ち主だった。
 戦場で遠目に見た時は勇猛な若武者ぶりにさすがに髭殿の子息よとうなずいたものだが、こうして武具を剥いでみれば華奢ですらある。
 捕縛した当初は殺せとわめき散らしていたのが、養父と引き離されたのがよほど不安だったのか今はおとなしく頭を垂れていた。
 もっとも捕縛してから2日あまり、余分な兵糧は無いとろくに食も与えていないから抵抗する力も無いのだろう。
 最初は顔も見ずに首を刎ねてやろうと考えていた。
 長い軍議の末に彼の義父の処遇は既に決してある。その成れの果ても、つい一刻ほど前に見届けた。
 何にしても大きすぎる義父の陰に、同時に捕縛された関平のことは誰もが忘れかけていたと言っても良い。
 大きな山が消えて、そういえばと思い出したのだ。
 酔狂のつもりだった。関羽と共に少兵とはいえ最後まで呉軍に煮え湯を飲ませたのだ。
 嫌みの一言でも言ってから殺そうとそう思った。だが。


--惜しい。

 乱れた軍袍の襟から白い項から覗いて、呂蒙はそう思った。
 ただ殺してしまうにはあまりに惜しい。


「捕虜として使う、という手もある。」

 予想外の言葉に、はっと関平は顔を上げた。
 すぐにでも刑に処されると覚悟を決めていたものを何故、と。
 泣いていたのか、紅く染まった目元が露骨に訝しんでいる。
 加えて面窶れした白面と噛み締めて紅を増した唇。空恐ろしいほどの色香だが、おそらく本人にその自覚はあるまい。
 緊張と空腹と不眠と疲労。
 連日の敗走と捕縛後の過酷な境遇。
 心身にあらゆる重圧がのしかかって、既に青年は死の影に浸食されかかっているように見えた。それをどうにか気力一つで支えている。
 どのような手を使っても、屈服させたいというような獣じみた熱が呂蒙の内を突き上げる。

「お主の出方ひとつだ。」
「何をっ。」
 畳み掛けるように関平は声を張った。
「このように捕縛の辱めを受け、今更何をっ!?」

 この状況下で、この凛とした物言い。さすがに武神の子だ。ますます、煽られる。

「...お義父上も、そなたを気にかけておられる。」

 幼子に諭すように、ことさらゆっくりと呂蒙は言った。
 途端に青年の顔が歪んだ。
 憧憬して止まない養父がもはや首だけの変わり果てた姿になったとは想像だにしていまい。
 おい、と脇に侍していた兵卒に促して縄目を解かせた。
 随分長い事そうしていたせいで、武人のわりには白い手首にくっきりと紅く縄目が刻まれていた。
 緊縛がなくとも彼が逃げないという確信が呂蒙にはあった。
 今や、関羽というその名だけが彼を束縛しているのだ。

「捕虜には捕虜らしい態度というものがあろう?
 それを示してはくれぬか。」

 側にいた兵達を全て下がらせたことで、聡い青年はおぼろげながらも敵将の意図を理解したらしい。その端正な顔に絶望的な色が走った。
 

 

 

  

 柔らかな舌が下肢を這っている。
 鎧の前垂れのみを外し、軍袍の前だけを くつろげてみせると命じられるまでもなく関平はむしゃぶりついてきた。
 出来る限り舌に唾液を絡ませて、瞼を閉じて、懸命に奉仕に専念する、純真な表情と娼婦のような仕草。

--そこまでして命が惜しいのか。

 死に花を咲かせてこその武将である。
 いかに大輪の華をひらかせるか、戦場ではそれに賭けていると言っても良い。
 しかし今の関平の心中にあるのは父、関羽のことだけだった。
 父さえ助かれば自分はどうなっても、という心の底からの思いが手に取るようにわかる。
 どれだけ、この青年が父を慕っていたか。

「..良いぞ。」

 関平とて敵の言葉全てを盲信しているわけではなかった。けれど、今は針の先ほどの希望にもすがりたい。
 あまりに熱心な奉仕にほんの少しだけ、空しさのようなものが呂蒙の心中を掠めたが、すぐに下肢を這う快楽にかき消された。
 

 

 

  じゅぷ..という水音に混じって息を継ぐ弱い声が聞こえる。
 しみ出した先走りが喉の奥に漏れて、鼻孔の奥を生臭さが伝う。独特の精の匂いがかつての記憶を呼び覚ますのか、次第に舌の動きは激しいものとなっていく。

「ちちうえっ。」

 息苦しさに口を外した関平がもらした一言に、二人の間に張りつめていた糸の最後の1本がぷつり、と切れた音がした。

 

 

 もとよりこの一時、情はかわしても心を繋ぐ気はない。
 甘い睦言も、丁寧な愛撫も必要ない。
 女の無い陣中で溜まりに溜まった欲を晴らす事が出来ればそれで良かった。
 どうやら関平のほうも状況に大差はなかったらしい。膝にあたる彼の足の間が熱く尖っている。

「ほぅ、おぬしもまんざらでないようだな。」

 関平が無意識に、腰をすりつけてくる。

「養父上..。」

 目を閉じて名を呼べば相手がその人であるかのような思いに捕われる。
 関平にとって幸か不幸か、相手を顧みない呂蒙のやり方は義父との交わりに酷似していた。
 そして彼の心はそれを混同してしまうほど求めてもいた。
 力任せに惹き倒し、後ろから覆いかぶさる。
 甲冑ごと身体を預けられてぐぅ、とつぶれたような声が上がったが気にする事は無い。

「ぁぐっ。」

 それでもこの身体は受け入れる事に慣れている。
 自らの手で両の肉を割り開いて少しでも苦痛を軽減しようとする。
 力を抜こうとする試みは、完全には実行しきれずにそこをひくつかせ、結果、男を煽るだけ。
 唾液で濡らした程度では十分な滑りは得られない。初めこそ、全てを進めるにはかなり強引に腰を突き入れねばならなかった。

「んっ..ひっ。」

 脇から覗き込むと、関平は自らの手で根元を塞き止めていた。そのくせ空いた片方の手は未練がましく先の割れ目を弄りまわしている。
 達する事とそれを戒める事。ぎりぎりの琴線上に自分で自分を追いつめているのだ。びくびくと中が痙攣しているのはそのためであったのか。

「そうだ。達してしまうと締まりが悪くなるからな。
 そのままにしておくのだぞ。」

 そう言って呂蒙は関平が快楽を追う事を許さなかった。
 このようなことまで関羽は息子に教え込んだのか、それとも関平が自ら経験の中で学び取ったのか。

「...はい。平は..がまんいたします。
 ですが...あぁっ..そのように強くされては...っ」

いつの間にか、関平は相手を養父だと思い込んでいるようだった。それならばそれで好都合、とばかりに呂蒙は腰を強く使いだす。

「イイっ..イイです、ちちうえ。きもちイイ。」

 特に選んで淫猥な言葉を吐けと。
 商売女のように腰をくねらせろと。
 戦場にあっては高潔を絵に描いたようなあの男が教え込んだのだろうか。
 ここが戦場であり、極度の緊張の中で禁欲を強いられてきた精神は完全に麻痺していた。
 それは関平とて同じだったのかもしれない。自分と、彼に、思っていたよりも早く絶頂が訪れようとしている。

「うっ..ぐっ。」

 これまでに無いほど深く突き上げ、熱い内部の、出来得る限り奥に射精した。
 全てを吐き出す事でこの行為が正当化される気がした。
 焦点の定まらぬ瞳が、誰を思い描いているのか
 だらしなく広げられたままの足の間からは彼の中に放ったものがダラダラと溢れ落ちている。
 依然として関平の手は自らの性器を戒めたままだった。
 健気なことに断続的に痙攣をくり返しながら、彼はなおも耐えていた。

「ちちうえ..お許しください..ちちうえ..。」

 熱に浮かされたように呟く言葉に、何を乞うているのか。誰に乞うているのか。
 薄く開かれたままの唇からもれるうわ言は急激に呂蒙から熱を奪い去った。
 青年の心は完全に壊れてしまったのか。
 それとも一足先に冥府に旅立った父が持ち去ってしまったのか。
 それは凄まじいまでの色香を放っていたが、同時に狂気じみてもいた。

 

 

 

 

 呂蒙は衣服を正すと、未だ地に伏している関平をそのままに足早に幕舍を立ち去ろうとした。
 幕の外に出てみれば、見張りに立つ兵卒と目が合った。
 先ほどまでの声を漏れ聞いていたのだろう。言葉にこそ出さないがどの目も下卑た情欲に潤んでいる。
 このような目を先ほどまでの自分もしていたのだろうか。
 獣のような、浅ましい目を。
「お前ら、あとは好きにして良いぞ。」
 飢えた狗の群れに生肉を放り込むようなものだ。
 自分の功罪は彼らがむさぼり尽くして跡形も無くかき消される。
「飽きたら始末をしておけ。」
 吐き捨てるように命じて呂蒙は幕舍を後にした。
  

 
 細く、引き絞るような嬌声が背を刺したが呂蒙は決して後を振り向かなかった。

 

 

 

 


無謀にも某お祭りに投下しようと試みて温めに温め過ぎたお話
関平その他は無双ビジュアルで、呂蒙さんは人形劇でお願いします
好きなんだけどな、呂蒙のおっさん