『 25時 の 声 』

 

 

 


 時計の針は深夜に近い。
 お気に入りのソファに寝転び、三成はさきほどからずっと携帯を手の中で弄んでいる。
 音を消したテレビの中で1日の出来事がテロップ付きで流れる。
 テーブルの上にはコンビニの袋から溢れて散らばる菓子の袋、気の抜けたペットボトル、溶けかかったアイスクリーム、ほとんど手つかずで冷めきった弁当。
 おざなりに、身体を湿らす程度のシャワーを浴びた後。濡れたままところどころはねている髪。
 クローゼットの中のパジャマを引っ張り出すのがおっくうで、トランクスにTシャツの出で立ち。よく身体をふかなかったせいで素肌に直に着たTシャツは水滴でまだらに染まっている。
 ふうっ、と息を吐いて意を決し、人肌に温もった携帯のボタンを押す。

 

 

 

えー..あ..も、もしもし?
島さんでしょうか?

 

あ、左近か?

 

その、そっちはどうだ?俺がいなくてもしっかりやってるか?
俺は平気だ。至極のびのびとやっている。
昼は紀之介のところで食べたし、コンビニ弁当というのもなかなか良い物だぞ。
明日の朝はめんどくさかったからパンにした。クリームとチョコとジャムのはいってるやつ。コンビニで。

 

って、俺のことばかり心配するんじゃない!
俺がっ、お前をっ、心配しているのだ!!
お前は酒で乱れるような事はないかと思うがほどほどにせよ。もう若くはないのだからな。
寝る時はちゃんとパジャマに着替えるのだ。下着のままで寝てはいけない。肩を冷やすと風邪をひく。
疲れていても夜のうちに風呂に入れ。ゆっくり湯につかって身体を温めてから寝ると朝の目覚めが断然ちがうぞ。
ハンカチと靴下は毎日とりかえるんだぞ。女というものは意外とそういう細かいまでしっかりチェックしているからな。あいつらを敵に回すと何かと面倒だ。

 

だからっ、俺の心配をするんじゃない!何度も言うが俺は平気だ!!
寂しくなんかないんだからな!!
好きな時におやつが食べれるし、ひろびろベットで眠れるし、夜更かしして漫画を読んでも誰にも怒られないんだからな!
ふん、左近がいなくてさっぱりしてるくらいなのだ。

 

 

 

...すまん..こんなことが言いたかったわけじゃない..のに。
だって、いくら心配したってお前はここにいないじゃないか。

 
  
ああ、わかってる。
あと3日だな。たった3日。72時間。4320分。259200秒。
大丈夫だ。平気。

 

ちょっと長いけど
多分、平気。
 

 

 

お土産、忘れるなよ。
真っすぐ帰ってこいよ。
俺が夕飯を作っておいてやろう。
なんだと!遠慮するな!!愛情込めてフルコースを作ってくれるわ。楽しみにしろ!

 

...うん。わかった。
待ってる。

 

お前と話したら安心した。
もう寝る。眠い。

 

 

 

なあ、左近。

もう少し、もう少しだけ、声を聞かせていてくれないか。

 

 

 

俺が眠るまで、あと、もう少しだけ。

  

  

 

  

 


出張中の左近に電話
自分から寂しいなんて、言えない

 

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