なんじゃこりゃーッ!!

 

 
 週末の夜。
 愛しのハニーとのラブラブ☆ミッドナイトだけを楽しみに、残業の末に帰宅した左近は我が家のリビングの有様に声にならない悲鳴を上げた。
  

 食べ散らかされたピザ。
 開けっ放しのまま飛び散ってさらには踏み荒らされた形跡まであるポテトチップスの袋。
 数えるのも恐ろしいほどのビールとチューハイの空き缶。
 おそらくは兼続が持参し、一人で飲み干したであろう越乃景虎一升瓶。
 果ては同じく兼続自慢の自家製塩辛の瓶が中身を半分まき散らしたまま転がっている。
  

 それらのゴミに埋もれているのは、討ち死にスタイル@大阪の陣後ムービーで突っ伏している真田幸村。ここに伊達殿がいないのがもったいない程の見事な潰れっぷりである。
 そこから少し離れた地点で“気をつけ!”の姿勢のままうつぶせで倒れているのは直江兼続。こんな格好で息苦しくないのだろうか。もっとも彼が窒息寸前の仮死状態であるとして、あの世とこの世の境目で亡き謙信公にご面会中であるとしても、左近として生温く祝福こそすれ関与するところではない。
 そしてこの家のもう一人の主、愛しのハニーこと三成はというと、この惨状に似つかわしくない天使のような(と、左近には見える)寝顔でソファに丸くなっていた。
 地獄に仏とはまさにこのこと...しばし垂れた目尻で見入った左近であったが、気を取り直してソファに歩み寄る。
 

「何があったんですか、殿。」
 

 めんどうなことになりそうなのであとの二人を起こさないように--もっとも二人ともちょっとやそっとでは目を覚ましそうにない泥酔っぷりであったが--小声で囁きかけながら左近は三成の肩を軽くゆすってみた。
 

「ん..帰ったのか左近。」
 

 ゆっくりと三成が瞼を開ける。
 

「兼続がな...日頃俺のためにがんばってくれている左近を励まそうと言い出して..一席設けたのだ。」
 

 とろん、とした目をこすりながらまだ夢うつつといった感じで三成はこの成り行きを話し始めた。
 

「サプライズなんとか...というやつで。左近をびっくりさせようと思って...。」
 

 びっくり、ね。しましたよ。十分。
 

「でもあんまり左近の帰りが遅いから...左近には悪いと思ったが勝手に始めさせてもらった。」
 

 そして勝手に終わってしまったというわけですな。
 

「それにしても、これはひどいですよ、殿。」
「すまない..さこん..。」
 

 三成はまだ酔いが抜けていないらしい。口から出る言葉はどうにか意味をなしているものの呂律が回っていない。
 

「悪いと思っているのなら、態度で示して欲しいものですな...。」
 

 左近は舌ったらずな唇を自分のそれで塞いだ。

 
「だめだ..さこん..。ここじゃあ...幸村たちが起きてしまう..。」
 

 元々これが楽しみで帰って来たのだ。抵抗力のない言葉を無視して三成が部屋着にしているパーカーのジッパーを下ろせば、うっすらと桃色に染まった肌。
 まるで左近を誘うようにさらに色濃く染まった胸の飾りに口づけようとした、その時。
 

「ぅおやたさぶぁぁぁぁぁ!!このゆきむらを叱ってくだされぇぇぇぇぇ!!!」
 

 がばぁっ!と墓場から復活したゾンビのごとく、フローリングに転がった幸村が雄叫びを上げて立ち上がった。
 

「ゆ、ゆ、ゆきむらぁっ!?」
 

 突然の出来事に怯える三成を嗜めつつ、左近は寝ぼけながらも号泣している幸村に容赦のない当て身をくらわせて400年前に叩き戻す。
 

「きっと前世の夢でも見てるんですよ。」
 

 にこり。これで一件落着、と。
 さて続きを、とばかりに左近は放りっぱなしになっていた三成の肌に再び舌を這わせる。愛らしく自己主張をしている小さな突起を舌先で転がし、赤子のように吸い上げてやる。
 

「ぁあ..気持ちイイ...さ..こん。」
 

 アルコールのせいで三成の目元は紅く染まり潤んで、身体の感度も絶好調。
 先ほどのように誰がいつ起きてくるかもしれないというこのシチュエーションは適度の緊張感も相まって二人にいつも以上の刺激を与えてくれる。
 左近としては起きて来た彼らに三成の愛らしさを見せつけてやってもよかったのだが、奴らにそれはもったいないと思い直した。
 滑らかな舌触りを楽しんでばかりいる左近に焦れたのか、三成の細い腕が左近の背に絡み付いて来た。
 

「ぁ..もっとぉ..。」
 

 素面では決して聞く事のできないであろう鼻にかかった甘い声。
 あの殿の口からこんな言葉が出てくるなんて。
 グッジョブ幸村、兼続。この時ばかり、左近は酔いつぶれた二人に感謝の眼差しを送った。
 左近が求められるままに三成のスウェットの中に愛撫の手を差し入れようとした、その時。
 

「ふたり共、兄にして弟ッ!!!」
 

 ばたばたっ!と磯に打ち上げられたイカのごとく、直立不動のままだった兼続が暴れだしたのである。
 寝ぼけながらも背筋を活用させ上半身をくねらせながら、クワッ!と目を見開いて何者かと義兄弟の契りを結んでいる兼続。
 うちは一体いつから化け物屋敷になったのか。
 エクソシストも真っ青な光景に左近は動じる事もなく慣れた手つきでそれを軽く締め落とし北の王国に送り返す。
 せいぜい夢の中ではお幸せに、と軽くイカに黙祷を捧げると左近はさらに続きをと、ソファを振り返った。 
 快楽でソファに縫い止められたままの三成からは甘い吐息がかすかに漏れ聞こえて...って、吐息にしては静かすぎやしないか。
 

 これではまるで...。
 

「ちょっ、殿!起きてくださいよ!」
 

 左近がちょっと大王イカに目を奪われたすきに、三成は上半身もあらわなままに安らかな寝息を立てていたのである。
 

「左近の大筒はどうなるんですか!?とのーッ!!(泣)」
 

 左近の悲痛な叫びにも関わらず、三成は既に深い夢の中。
 こうなってはもう頬を張ろうがソファからたたき落とそうが目を覚ましそうにない。もっとも三成可愛しの左近にそんな非道が出来るはずもなかった。
 

 

 

 

 その後左近はお預けをくらった大筒をなだめつつも、すっかり寝入ってしまった三成をベットルームに運び、風邪をひかないようにしっかりと毛布でくるんだ後、孤独な夜を荒れ果てたリビングの回復に費やしたのだった。
 

 

 

 

 そして、翌朝。
 マンションのゴミ捨て場には大量の空き缶と食べ殻の詰まったゴミ袋と共に仲良く簀巻きにされた紅白の物体があったとかなかったとか。

 

 

 

 


現代パラレルさこみつ+愉快な仲間達
なんだかいろいろ混ざってますが大目に見てやってください
左近と三成は同棲してます
左近はリーマン
みったんは目下のところ専業主婦
でも家事ばっかりで家にこもっているのもつまらないしパートにでもでようかしら、なんてそんな感じ
二人の愛の巣には時々みったんの愉快な仲間達が遊びに来ます
左近と兼続、幸村には申し訳ないけど書いてて久々に楽しかったー