小さい頃 奇麗な人形に憧れた
でも与えられたのは剣だったから 今もあの人形は蔵の中

   

   

    

 

 

  

  

 宴をいたそう、と誘ったのは正則の方からだった。
 その時の三成の顔といったら、それはもう素直なもので、苦み虫を押しつぶしたような、というのはまさにこのこととその場にいた誰もが思ったほどだ。

 
--共に豊臣の臣。いがみあってばかりでは太閤殿下の御ためにならぬ。
  

 そういうと、馬鹿のつく程忠誠心の厚い彼は、よほど不審に思ったのだろうが、それでも約した日取りにこちらの言った通りごく少数の供を連れて正則の屋敷にやって来たのだった。
 主従居並ぶ中で杯を挙げ、最初は剣呑な雰囲気で満ち満ちていた場も、人は酒が入れば変わるもので、まず正則方の家臣が歌を吟じ、それに負けじと三成方の自負ある者が舞を披露する。
 余興に座は盛り上がり、過ぎた酒にその場に伏す者も現れた頃。
 元来、酒には強くない三成は唇を濡らす程度にたしなみながら家臣達の騒ぐ様子を眺めていたがその顔からは当初の強ばった面持ちは消えていた。
 その時を見計らって正則は誘いをかけた。
  

--徳川殿に動きがある。少し、話をしたいのだが。
  

 徳川、という言葉に一瞬、三成の眼光が鋭くなる。
 三成が無言でうなずくと、それでは、と言って正則は彼を伴って乱れた酒宴の場をそっと後にした。
 そして、それきり、三成の姿は消えた。

  

  

  

  

 朝になって騒ぐ供の者達には酒宴の席で主人は体調を崩したと伝えた。

--日頃の疲れが溜まっておいでであったのだろう。

 安静が一番。今はそっと寝かせておいて差し上げよ。
 それでも一目主人の姿をと言う彼らには、背格好のよく似た者を深く布団に潜らせその寝姿を遠く障子の隙間から垣間見せ、しぶしぶであるが納得させた。

--二、三日ご逗留の上、こちらから送り届け申す故、ご安心召されよ。

 だからといって、主人をおいて家臣のみがすごすごと帰宅する訳にはいかない。彼らもまた正則邸に逗留を請い、三成の回復を待つということで双方決した。

    

  

  

  

 多くの武家の屋敷がそうであるように、正則の屋敷の裏手には平素、兵糧やら武具やらを締まっておくためのいくつもの蔵がある。
 その中でも特に奥まったところ、今は誰も使っていないそのひとつに正則はいた。
 蔵の中は2層構造になっており、しかし二階部分に続く階段は無い。そこに登りたい時は下から梯子を立てかけるのだ。飛び降りれば怪我を負わない保証は無い高さである。梯子を外してしまえば二階は完全に孤立する。
 正則は梯子を持ち出すと、一歩一歩を踏みしめるように登った。
 そこにある、人形に会う為に。
 天窓一つしかない蔵の中は真昼間だというのに薄暗く、長く使われていないせいでかび臭い。
 細かなほこりが舞うのが照らされた光の中に“それ”は居た。
 正座を崩した姿勢で、ぺたりと太ももを床に付けて座り込み、時に尻を床にこすりつけ、小刻みに腰を上下させて。

「..あ..さこ..ぉん」

 人の気配に気付いた“それ”がこちらに顔を向ける。
 とろり、ととけた瞳。おそらくそこに映っているのは彼の最愛の情人の姿。

「..くるし...どうにか..して」

 城内で見せる鋭利な表情からは想像もつかないねっとりと甘えた表情。
 口の端からは涎が一筋こぼれ落ちて、はだけた鎖骨に溜まりを作っている。
 腕は後ろで戒められている。こうして身体を揺らす事で胎内に仕込まれた玩具を動かして自身を弄んでいるのだ。
 正則が近づいても彼は淫らな独り遊びを止めなかった。
 あの宴の後、三成には酒に混ぜて南蛮の商人から買い付けた薬を盛った。
 我ながらひねりの無い策だと分かっている。しかし、この切れ味の鋭い刃を錆びさせてしまうには蜜をもって腐らす意外に正則には思いつかなかったのだ。
 商人の言によれば、その薬は我を忘れさせ、性感を極限まで高め、しかも薬の切れ目と同時にそれらをすっかり忘れてしまうのだという。そんな都合の良い薬があるものかと、半信半疑で使ってみればこの様である。南蛮人の言う事もあながち嘘ではなかったのだ。
 

「殿、左近が来るのを待てませなんだか」
 

 わざと口調を真似て頬に触れてやると、自ら頭をひねってその指に舌を絡めてくる。
 このようなことをあの男が教え込んだのか。
 正則の心中に黒い炎が灯ったが、それが何によるものなのか、正則自身には分からない。
 ただ、凶暴な衝動だけが炎から出る煤のように彼の皮膚を内側から焼いた。

 

 

 

 

 彼の強請る玩具には触れずに上半身の着物をすっかり落としてしまう。
 もともと肩に未練がましく引っかかっていただけのそれはするりと抜け落ち、下帯等は最初から着けさせていなかったから、三成の身体には帯一本でかろうじて布切れがまとわりついているような状態に成り果てた。
 飽く事無く身体を揺らし続ける白磁の肌に指を這わす。
 正則の触れたところから熱が生じ、たったそれだけのことで三成の身体は大げさに跳ねた。
 やがてたどり着いた熟れた乳首触れると、そこを弄られるのが余程好きなのだろう期待で三成は唇の端を持ち上げた。
 

「あっ..ふぅん..。」
 

 突起の周り、色づく部分を円を描くようになで回してやるとさらに腰の動きが強くなる。
 目線を下に移せば、はだけた裾の間から布を押しのけるようにして、直接触れていない性器が頭をもたげている。ひっきりなしに先端から溢れる粘液のせいでべとべとに濡れたそれは辺りの着物の色を濃く変えていた。
 

「さこん..さわってぇ..」
 

 無意識の三成の言葉に正則の炎が一瞬激しく火花を散らした。
 優しいとも言える愛撫を中断し、爪を立ててきつく突起を摘まみ上げてやる。
 

「ひっぎっぃ!!」

 
 強く痺れるような苦痛に、三成の身体は大きくしなり、蛙の潰れるような無様な悲鳴を上げてあっけなく達してしまった。
 結局、触れられることのなかった性器がびくりと大きく揺れ、白濁が床に水たまりを作る。
 

「自分で汚したんだ。自分で奇麗にしろよ。」
 

 この人形は、人形のくせに正則を自身でも制御できない、ひどく凶暴な気持ちにさせる。
 正則は力の抜けた三成の腕を掴み、膝だけを立てた姿勢で腹這いにさせた。
 肩だけで上半身の体重を支える不自由な姿勢。
 柔らかな髪を鷲掴みにし、まだ暖かさの残る床の精液に三成の顔を押し付ける。
 三成は、そうすることが彼らの閨の常なのか言われるがまま素直に舌をのばして自分の排泄した粘液を舐めとりはじめた。
 ぴちゃぴちゃと、子犬が乳を貪るような水音を立てる三成の後ろで、正則は後ろで玩具をこねくり回して、意地の悪い責めを開始する。
 一度達した三成のものが再び熱を取りもどしつつあるのを確認しながら、今度は決して達してしまわぬように緩くかき回し、時には浅く深く突き入れる。
 

「ぁあ..そこを..。」
 

 与えた媚薬のせいで、ひっかかりを感じる事も無く正則の動きのままに玩具は三成を蹂躙したが、決して彼の欲しい場所には施そうとしなかった。
 

「おねが...ぃ..そこぉ..。」
 

 耐えきれず、涙まじりに懇願をする三成の声。
 突けば解放される。だから、与えてなんてやらない。
 これは、正則にとって性行為ですらないのだから。

 

 

 

 

「自分でいれろ。」
 

 仰向けに横たわった正則の上で膝立ちのまま、三成は眉をひそめて短い吐息を吐いていた。 
 後孔を責めて玩具は抜き取られたものの、そこは長い間異物を埋め込まれていたせいでぽっかりと穴をあけたまま、露をしたたらせてる。
 言われるままに腰を落とせばね新たな快楽が得られる。それは分かっていた。けれど、鈍った思考の中でも最後に残った羞恥心の欠片が彼を押しとどめていた。これまでとは違う、強制されるのではなく、自ら求めることを要求される行為。
 なかなか思うように動き始めない三成に正則は苛立ち始めた。あれだけ乱れておいて、今更何を躊躇しているのだ。
 

「ほら、欲しいんだろ。」
 

 腰を浮かせ、いきり立った先端で入り口をなぞってやる。
 

「あぁ..。」
 

 三成は俯いて、それに答えるように、自らも腰を回し快楽の淵をなぞり始めた。
 いま一歩。そう思った正則は、ごく先端だけをぽっかりと開いた孔に押し付けてやる。
 

「ぅん..ぅ。」
 

 三成は大きくひとつ、ため息をつくと、そこから先の陥落は早かった。
 自分の筋の浮いた赤黒いもの白い身体の中に飲み込まれていく。三成のものが完全に立ち上がっているせいで、繋がっている箇所はまる見えになっている。一種の感動に近い感情をもって正則はその光景を見守った。
 時折深く息をつき、玩具とは違う熱を味わいながら、ゆっくりと、それでも倦む事無く三成は腰を落としていく。
 

「ぐっ..」
 

 熱くとろけそうな粘膜に自身を抱き締められ、今度は正則が吐息をつく番だった。
 このままではまずい。人形として虜にするつもりが、これではこちらが溺れてしまうではないか。
 

「おらっ!」
 

 焦りにも似たもの感じ、あと一息で全てが埋まる、といったところで突然下から突き上げてやった。
 

「あぁっ!!」
 

 三成の身体が弓なりにおおきく仰け反る。
 

「動けよ、この淫売。」
 

 固まったまま動けない三成に、正則はわざと蔑むような命を下した。 
 それでも最初の衝撃から抜けきれない身体に、一、二回下から突き上げてやればどん欲な性はさらなる快楽を貪り始める。
 促されるまま、腰を持ち上げ、自らの体重で突き落とし、中の悦いところをえぐるためにかき回す。狂ったように腰を振り始めるにさして時間は掛からなかった。
 

「さこん..さ.さこん...。」 
 

 甘く、苦しげな吐息に混じって吐かれる名は正則を苛んだ。身体の上でまるで自慰のような律動を繰り返す三成の脳裏にあるのはあくまで大切な家臣であり情人であるあの男の姿なのだ。
 こうなるよう仕組んだのは自分のはずなのに、しかし、後悔などしていない。こうなればどこまでも貶めてやればいいのだから。
 

「もぅ..イっ、イきそっ。」
 

 言葉の通り、さらけ出された三成の性器はしとどに蜜を溢れさせ、小刻みに揺れて崩壊の近さは一目瞭然だった。
 正則ははちきれんばかりのそれに手を伸ばして扱いてやる。
 今までになかった優しさに三成は一瞬驚いたような色を見せたが、すぐに施しを受け入れ正則の手の動きに合わせて自らも身体の揺れを激しいものにした。
 

「イクっ..ぁ!!」
 

 しかし絶頂の瞬間、正則が行ったのは解放とはまったく逆の行為だった。
 親指と人差し指で輪を作り三成の根元をきつく戒めたのである。
 

「ぎ..ゃぁぁ!!!」
 

 達するはずのものが本来の器官ではないところへ逆流し、三成は激痛にこの世のものとも悲鳴をあげる。
 大きく口を開けて、眉間に皺を寄せ、激しく歪んだその顔さえ美しいと正則は思った。
 それは一個の人形が人間に成った瞬間だった。
 目を見開いたまま三成の身体は心を失い、がくり、と操り人形の糸の切れたように正則の胸に倒れ込んだのだった。

 

 

 

 

 小さな天窓から射す光に照らされて先ほどの痴態が嘘だったかのように三成は眠っている。
 どうせ彼にとっては目を覚ませば全てが夢だ。
 表情の無い寝顔を見つめながら、正則は自嘲気味に思った。
 せめて、この身を焼く得体の知れない思いも夢と消えれば良いのにと。

 
 

  

  

  

   

   

   

  

   

 


  

いつか酔っぱらって書くと言った気がする正則×三成
ただ、みったんが喘いでいるだけになりました
正則はみったんに執着はあるけどそれは別に恋じゃないと思うのです
蔵の中、人形、乱歩。現世は夢 夜の夢こそまこと、てことで