現パロ。ハロウィンネタ。

 

  

 

 一人で暮らしていた頃には年中行事というやつに無関心な方だったと左近は思う。
 クリスマスもお正月も。世間とのおつきあい程度にそれなりの形は整えるものの、子供の頃のようなドキドキ感を抱く事はなかった。
 それが変わったのは愛らしい恋人と暮らすようになってからだ。
 周囲に大切にされて育ってきたせいか、どことなく幼さを残す彼は楽しむことにどん欲だ。
 そしてそれは、こういったイベントの際に最大限に発揮される。

 

 

 

 
「また派手に飾りましたなぁ。」

 
 珍しく仕事が定時に終わり、早めの帰宅を果たした左近はリビングを見回して感嘆の声をあげた。
 どこから仕入れて来たのか部屋中がオレンジ色のカボチャの電飾とコウモリの切り紙で飾られ、テーブルの上には自分たちの姿を模したのか大きなカボチャと一回り小さなカボチャが寄り添って笑っている。
 

「左近!Trick or treat!」
 

 最近は街でもちらほら聞かれるようになったお決まりのかけ声とともに、ドアの影から恋人が顔をのぞかせる。
 頭にはひょっこりと長い耳が揺れ、白いフェイクファーを襟元と裾にあしらった白いケープのお衣装。お揃いのルームシューズにお尻には丸いしっぽまで。なんて可愛らしいウサギちゃんなのだ。左近はこのツボを突きまくったコスチュームにしばし見とれた。
 

「なぁ左近ったら!」
 

「殿、そんなお衣装をどこで。」
 

 ハロウィンのコスチュームといえばモンスター、魔法使いの類いのものが主流なはずだ。これでは仮装というよりむしろコスプレさんではないか。
 

「兼続が用意してくれたのだ。変か?」
 

 あのイカめ。
 萌え〜なうさたん三成の姿を思い浮かべながらミシンに向かう兼続の姿が容易に想像されて左近は顔をしかめる。
 しかし、うさたんお衣装と三成に罪は無いのだし、これはこれでなかなか、いや絶景の眺めなのである。
 

「残念ながら、お菓子を用意しておりませんでした。
 さぁ悪戯を!いざ!!」
 

 両手を広げてじりじりと間合いを詰めてくる左近。
 

「ばかさこん!それじゃいつもと変わらんではないか!」
 

 つかまるまいとぴょこぴょこ部屋を逃げ回る三成だが、結局はその大きな手に捕らえられてしまう。

「はーなーせー。」

 ジタバタするうさぎちゃんを抱き上げて、この左近、狼さんとなる!
 哀れなうさぎちゃんが狼さんの牙にかかろうとしていたまさにその時。

    ピンポーンピンポーン

 玄関のチャイムが鳴った。


「Trick or treat!!」


 この時ほど、左近は玄関の鍵をかけ忘れた事を後悔したことはない。
 ドアが開かれ、そこには異様な風体の男が二人。
 片方は戦国甲冑の落ち武者スタイル、もう片方は何かのアニメーションのキャラクターなのだろうか黒マントにコウモリ羽。
 こいつらこの格好で電車に乗って来たのだろうか。

「研究室にあったものを借りて参りました。けっこう重いです、これ。」

「三成!どうだ私の作った萌え萌えうさみったんコスチュームは!」

「二人ともすごいな!お菓子は持って来てくれたのだろう?」

 不意を突かれた左近の腕をするりと抜け出て、三成は走り出して行ってしまう。
 過去何度も出逢ったこのパターンに、取り残された左近は盛大にため息をついた。
 玄関ではハロウィンをコスプレ大会と勘違いしたままの3人がきゃあきゃあとお互いのコスチュームを鑑賞し合っている。
 

 
 楽しいお友達がお帰りになったら。二人っきりになったら。
 今夜はたっぷりと悪戯を仕掛けて差し上げましょう。
 もちろん、甘いお菓子も忘れずにね。

  

   

 

  

  

   

 

  


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