『初雪』
   
   

 
 都より遥か彼方のこの国は人も城も、野も山も、1年の半分を雪に埋もれて過ごすのだと書き送った文に、いつかその姿をこの目で見てみたいと短い返事。
 彼が生まれ育った湖の近くの村でだって、冬になれば雪も降ったのだろうけれどこれほどの景色は知るまいと雪の中で生まれ育った兼続は友の驚く顔を思い浮かべて微笑んだ。

 それから、もう、幾年。どれほどの季節が過ぎ去ったか。

 やっと領地に戻ることを許された身にも冬が廻り来て。
 凍てつく風の合間に今年初めての白い欠片を見付け、兼続は思わず文机を蹴り、山積みになった文書を掻き分けて縁側へ転がり出た。
 初雪を待たず秋の終わりに逝った彼が見ることの無かったそれを落とす天を見上げて、息を飲む。

 

--嗚呼、なんて、白い。

  どこまでもどこまでも広がる白い、空。
 まるでそれが少しずつ剥がれ落ちてくるように、次々と細い雪が舞う。
 人の魂が天に昇るというならば、彼はそこで見ているのかもしれない。一面の雪に覆われた、真白な世界。
 音も無く降る雪は止まない。

 

 

 
 人も城も、野も山も、やがて地上の全てを覆い尽くすまで。

 
 
  
 

 
 

 
 
 


 

 

   

  

 

  


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