ずるり、と濡れた音がして、左近のものの一番張った雁首が狭い入り口を抜け出たとき、三成の身体は大きく痙攣した。
 追うように、酷使されて締まり切らない孔から左近の出したものがとろとろと流れ出てくる。
 先ほどまで繋がって一つであったものが、再び分たれた二つの身体。
 左近は身を起こし、仰向けに横たわったままの三成を見た。
 手足を投げ出し瞼は硬く閉じられたままであるものの、その薄い胸はせわしなく上下している。
 乱れた髪が一房張り付いているのをのけてやろうとして左近は何気なく三成の喉元に手をかけた。
 と、三成がうっすらと目を開く。
 まだ快楽の余韻に支配されて濡れた瞳が情人の姿を認める。
 夢の中を漂うようにうっとりと自分を見つめるそれ。
 もっと、触れたい。誘われるように、左近はもう片方の手も三成の喉に触れた。
 全身をしっとりと覆っていた汗が引いたせいで彼の皮膚は死人のように冷たい。
 暖めてやりたくて左近は両手で三成の喉を覆った。女のように細い首は左近の大きな手でやすやすと囲めてしまう。


「俺を...殺すのか。」

 その手が、自分の首を絞めているのだと思ったのか三成が口を開いた。

 声をとともに左近の手に微弱な振動が伝わってくる。
 

「もし、そうだ、と答えたらいかがなさる。」
 

 三成の言うように、喉仏を押しつぶせば声を封じる事ができる。
 頸骨に沿わせた指に力を加えれば命を奪う事さえ。
 それは路傍の花を手折るより簡単に思えた。
 

「良い。左近の思うがままにせよ。」
 

 このまま。
 このまま、この手にほんの少し力を込めれば。
 その先にある永遠が誘惑するのを左近は感じていた。
 

「戦場で誰とも知れぬ者に首を晒すよりは、いっそ今、ここで、お前に。」
 

 さらに誘いをかけるように三成は心持ち顎をあげ、白い喉元を差し出す。
 

「俺は、お前に殺されたい。」
 

 とろけるようなかすかなつぶやき。
 

「何故..。」
 

 何故、そうやって、何もかも明け渡してしまうのか。
 自分のような情交の相手に、何故。
 

「俺は左近のものであるが故に。」
 

 その時、確かに三成は恍惚として笑っていた。まるで閨の闇の中で花の綻ぶように。
 睦言でも、夢でもなく、そこには確かな意志があった。
 左近は葛藤した。そして葛藤している自分に愕然とした。
 とうてい叶わぬはずの永遠を、自分は今、掴もうとしている。
 この美しい主人の肉体を生け贄にして。

「...できませぬ。」

 指を締めようとしたほんの一瞬手前でかろうじて左近は自身を踏みとどまらせた。
 

「鬼の左近にもできぬ事があるのか。」
 

 その手から力の抜けた事を感じた三成はもう笑んでいない。
 吐かれた言葉は諦めにも似て。
 細かに震えた手をどうにか首から引きはがし、左近は思う。

 

 

 

 

鬼だった左近を殺したのは、殿、貴方です

 

 

 

 


 

なんだこのDVカップル
拍手の殿DVの逆バージョンになってしまいました
殿の追悼のはずでしたが、なんだか謎のまま終わる
タイトルは村上龍の小説から