最初の頃は指一つ触れるにしたって怖がって、震えてそりゃ可憐だったもんさ。
 普段は何が起きたって平然としてる奇麗な顔が、真っ赤になって笑ったり怒ったり泣いたりしたうえにゆっくり融けてくのを見るのは格別だった。  
 それがどうだ。  
 このところじゃ、左近、今宵は?なんてご自分から誘ってくださる。まったくありがたいね。

 
 そうですね、殿。せっかくのお誘いではありますが左近は今宵、酒宴に赴かねばなりません。敵方の事情を探る為のこれもお役目、ご了見くださいよ。

 
 でたらめの用事を告げてやると一瞬ひどく残念そうな顔をして、そうか、それはご苦労なんてすぐに取り繕って頷いてみせるけど、そんなふりしたってバレバレなんですよ。お上品ぶってないで抱いてほしくて堪りませんって素直にそう言やいいのに。
 だから夜も更けた頃、いかにも宴からもどりました、てふうを装ってご寝所にお伺いしてやる。

 
 殿、お休みのところ失礼します。このような時刻にご無礼とは存じましたか火急にお伝えしたく思いましてね。

 
 しばらくすると入れ、と小さな声が聞こえて滑り込むように侵入した部屋には、ぐしゃぐしゃに丸められた懐紙がいくつも転がって、青臭い独特の匂いが籠っていた。
 まあ予想してた事だけどね、元服したばっかりの小僧じゃあるまいしどれだけしたんだか。

 
 左近がいなかったのはそんなに寂しかったですか。

 
 言い終える前に細い身体がぶつかるようにしがみついて来て唇を塞がれた。
 ぐいぐいと押し入ってくる舌に自分のを絡めて相手をしてやるけど、いつまでたっても上手くならないね。口の中をただ舐め回されてるみたいでちっともこない。
 自分勝手な児戯にすっかり満足して力が抜けちまった身体を褥の上に押し倒して、もうほとんど帯だけでひっかかっていた襦袢をとっぱらってやる。
 膝を立てさせて割り開くとそこはもうぐちゃぐちゃに濡れて、飛び散った精液が胸の辺りにまでこびりついてるじゃないか。
 俺がいない間の痴態の名残を観察していると、さっきの口吸い(たかだかあんなもんで)のせいで半分勃起していた男根の先から先走りが滲み出して来た。
 見られているだけで感じちまうんだ、この方の身体は。
 それでもなんにもしてやらない俺に焦れたのか、脚をおっぴろげたままおずおずと手を肛門の淵に沿わせる。
 さっきまで随分弄ってたんだろう。使い込みすぎて真っ赤な粘膜が半分外にめくれあがって内部が覗けるくらいに緩んじまってる。
 さあ、どうぞ見てくださいとばかりに指先でもってそこを開いて誘ってくださるんだが、もともと糞をひり出すところだぜ。いくら奇麗な色してたって、いいや、奇麗な色してるからこそ余計気味が悪いね。

 
 だめですよ殿、左近がまだです。

 
 自分の着物の前を開いて、うなだれた男根を見せつけてやるとすぐにもでももらえるなんて浅はかに考えてたんだろう。今にも泣き出しそうな顔をした。

 
 こっちにもこっちの事情があるんですから、ご自分が欲しい時になんでも手に入ると思わないでくださいね。欲しかったらほら、どうするかわかるでしょ。

 
 そう言うと四つん這いになってむしゃぶりついてきた。
 男のものなんて舐めて何がそんなに興奮するんだか、はっ、はっ、と犬みたいに息を荒げて、舌で舐めたり、手で扱き上げたりと随分とご執心なんだがこれがどうにも悦くない。
 あったかくて適度に湿ったお口に包まれるのは気持ちよくない訳じゃないんだがね、どうにもツボを外しているっていうか、こっちのことは何にも考えないでやりたいようにやってるだけっていうか、つまりはとんでもなく下手くそだ。
 口吸いだってそうなんだが、この人はこういうことをさせられてる自分、てやつが気持ちイイからシテるだけなんだ。
 組み敷かれて陵辱されて、口淫を強要されて。
 メ非道な家臣の慰み者にされるお可哀想なご自分モが大層お好きなんだ。
 独りよがりのおしゃぶりにつき合うのもいい加減飽きて来たので前髪をつかみあげて鼻先に突きつけたまま、自分で扱き上げてさっさと出した。
 顔中精液まみれにして、左近のにおい...、なんてうっとりされると正直引くね。
 出しちまえばそんなもん排泄物と一緒なんですよ。
 あんたの顔は便所かよ、って。
 さてその便所がいよいよ突っ込んでもらえるもんだと思ってすり寄ってくるんだが、なにはともあれ下半身はすっきりしてしまったのでもうこれ以上は面倒臭い。

 
 あいにくなんですが殿、今ので満足しちまいました。今日はもういいですか。

 
 そんな、俺はまだ。

 
 今度は本当に涙を浮かべてる。正直なのは良いんですがね、そういうのが一番面倒だってわからないのかね。

 
 あんただって俺がいない間いっぱいしたんでしょ。まだ足り無いんですか。後ろじゃないと満足できないなんて、あんたの身体、もう男じゃないね。じゃ、ま、そうですね。左近がその気になるようにしてみてくださいよ、ってねえ、それじゃただの自慰でしょうが。あんたが気持ちイイだけでこっちは男がケツの穴弄くってヨがってるところみせつけられたってちっとも嬉かないんですよ。ああ、興ざめだ。本当に萎えちまった。俺はもう寝ますよ。ご報告は明日だ。そうそう、ご自分で為されるのは勝手ですが明日に響かないようにしてくださいよ。ではお休みなさいませ、お殿様。

 
 酷い、このままだなんてあんまりだ。

 
 啜り泣きながらそんなことを喚き散らすわりには、もう俺の姿なんて見えてないみたいに夢中で手を動かして耽っていらっしゃるじゃないか。
 顔中涎やらや涙やら俺のぶっかけたものやらでべとべと。しかもまあそんなにご自分の手がイイのか白目なんて剥いちゃって。奇麗なお顔が跡形も無いね。これでおっ勃つ奴がいたら見てみたいもんだ。
 こうなっちまったきっかけは俺なんだろうけど、まさかここまでになるなんて、それはやっぱり素質ってやつだ。もともとがどうしようもない淫乱だったのさ。
 過ぎたるは及ばざるが如し。ほとほと愛想が尽きるが今さら放り出す訳にもいかないし、俺の知らないところでご乱行がバレてお家取り潰しなんてことにでもなったらまた喰いっぱぐれちまう。
 
 
 
 で、なんだかんだ言いながらもこうして毎晩飽きもせずに相手をしてやってるってことは結局は俺も情に絆されちまってるのかね。

 

 

 


  
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